石垣島プレリュード

ゲイバー殺人事件の容疑者、木口九一逮捕の作戦会議は八重山署で行われた。


内地から敷島、広道を含め4人、沖縄県警から警部補ほか4名、計8名が参加した。


八重山署の署員はいずれも蚊帳の外、会議室のみの提供となった。

当然である。ヨナミネの情報提供にまともに取り合わなかったのだから。ヨナミネを無下に追い返した八重山署の警官に至っては警部補に一喝され減給処分となった。


たった1人の犯人逮捕に警察官8名はいささか多すぎるきらいがあったが、あわや逮捕というところで木口を取り逃がした苦い経験があった。

二度の失敗は許されなかった。


会議室の黒板にヨナミネが敷地の見取図を描いた。

敷地内には母屋があり、20メートルほど離れた場所に向かい合わせに宿泊所があった。

かつては期間限定で多くのアルバイトを雇った。多くは島外から来ていたためそこに寝泊まりさせた。


木口は今その宿泊所で暮らしている。ソヨンと名乗る韓国人妻と一緒に。そして妻は妊娠している。


宿泊所は二階建て、一階の玄関を入ると廊下が伸びている。

右手に襖の扉があり、開けると10畳の和室、奥に台所、トイレ、洗面所、シャワー室がある。

左手には階段がある。


二階も和室で住み込みのアルバイトが6〜8名布団を敷いて雑魚寝できる広さである。


作戦が決まった。

敷島、広道が玄関から入り木口を逮捕する。逃亡に備えて人が出入りできる窓の外に人員を配置する。

浴室の窓の外に2名、二階の窓二箇所その下に各2名。


決行日時は明日、8月4日、午前6時30分。日の出の時刻である。



玄関からの突入にはヨナミネも立ち合い彼の持つ合鍵で解錠する。


ヨナミネが逮捕劇に立ち合うのは当然今回が初めてだ。

彼には逮捕の瞬間がどのようなものになるのか想像もつかなかった。

木口は大人しく逮捕されるだろうか。

それとも激しく抵抗するのだろうか。


「穏便に済めばいいですが…」


ヨナミネは不安の滲む声を誰に対してというわけでもなく漏らした。


返事は誰からもなかった。


(つづく)

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