第102話 プリーモ商会ールイス会長side

プリーモ商会会長ルイスは忙しい1日を終えて、書斎に入ると肩の力を抜いてため息をついた。

ここ最近はゆっくり休む暇がない。それだけ儲かるのならいいのだが、儲けにはならない仕事ばかりだ。


「どうした? ため息なんて付いて。悪だくみが成功したんじゃないのか?」


暗闇から突然声が聞こえたかと思うと窓から人影が......。

若い頃から強面相手にも交渉して来たルイスに怖いものはなかったが、その人影が誰だか認識した途端


「ひぃーーぃ」


と情けない声が出た。


「幽霊でも見たような声じゃないか。失礼だろう」


男がゆっくりと近づいてくる。後ずさりながら口を開く。


「タ....タケル様。ど、どうしてここに.....」


「ふん。俺がちょっと留守にしてる間に息子を使って色々してくれたようだな」


ルイスはぶるんぶるんと首を振る。


「ナナミさんに悪いようにはしてないです。仕入れ値も売ってる値段のまま買って、売るのも同じ値段で売ってます」


「それはそれは。そんな儲けにもならない事をわざわざするのか? 裏があるんじゃないか?」


「裏なんてないです。王都から離れてるから、どうしても手にいれてくれとお得意様から頼まれて断れなかっただけです。信じてください」


ルイスは必死だった。ここで間違えたら何をされるかわからない。もし殺されたとしても『勇者に逆らうなんて馬鹿な奴だ』で終わってしまうだろう。いや、自分ひとりが殺されてすむのならいいが、家族やプリーモ商会にまで被害が出たら......。


「ふーん。だったら爆買いツアーについてはどういうことだ?」


「は? バクガイ? 買い物ツアーを組んだのは息子ですが、マジックショップナナミに貢献する為だと聞いてます。裕福なご婦人が多く参加されるので沢山売れると思いますよ」


「見解の相違だな。ナナミはほどほどに売れるくらいが希望なんだ。お前たちとは違う。今度からは相談しろ」


なんだって!! 商売をしてるのにほどほどとかおかしいだろうと怒鳴りそうになって慌てて口を閉じた。ここでまた勇者を怒らせたら大変だ。


「ホテルはどうするんだ? どのくらいのツアーか知らないが裕福な人が泊まれるホテルなんてあまりないぞ」


「広い土地があるようなのでそこに建設する予定です」


「そんなことしたら時間がかかる......ああ、魔法で建てるつもりか? 太っ腹だな」


「長い目で見たら、魔法で建てた方が安くつく事もあるんです」


タケルはルイスの台詞を聞くと急にニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。それを見てルイスは嫌な予感に胸がキュウっとする。


「いいところがあるんだ。この間、あそこの領主に無理を言って売ってもらった土地がある。そこに建てると良い」


「はぁ? いえ、もうどこに建てるか決めてるんで、これから領主様に許可を貰おうと思ってるんで折角ですが......」


「嫌だと? まさか俺の話を断って、許可が出るとでも?」


「ひぃーーぃ! すみません。そこに建てます。建てさせてください」


「変な声出すなよ。俺が脅してるみたいじゃないか。温泉もあるし良いところなんだからな」


ルイスは温泉と聞いてホッとした。温泉があるのなら損することもないだろう。ーー後に魔物が出ることで有名な山の上だと知って嘆くことになるが、その時には契約が結ばれていて後に引けなくなっていた。


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