第88話 花の種
「シチューの匂いがする」
タケルがシチューの匂いにつられて戻ってきた。
ほうれん草と人参とコッコウ鳥の肉で作ったシチューだ。
「野菜はどうやら問題なさそうだな」
「そうね。人参は人参だし、大根も大根の味がする。ちょっと大きいのが気になるけど、中がスカスカになってるわけでもないからかえって得した気がする」
タケルは作った料理をひとつづつ片付けていく。私とクリリはもう食べたから退屈だ。
「タケル、その人誰なの?」
タケルがが食べてる後ろに立ってる人の事を聞く。さっきタケルの事を旦那様とか言ってた人だ。
「ああ、この領地を俺の前に管理してた人の息子でルドリア。今は俺の代理でここを管理してる」
えー。じゃあ本当の貴族様。どうりでタケルと違って気品があると思ったよ。
「貴族様なんですね。知らなかったので挨拶遅れてすみません。タケルの友人のナナミと言います」
「いえ、もう貴族じゃないんですよ。タケル様がいなかったら路頭に迷うところだったんですから」
そっか。タケルの前に管理してたってことは、ようするに首になったって事かな。事情はわからないけど急に平民になるって大変だろうなぁ。
「ん? タケルって貴族様なの?」
「伯爵ですよ。この土地の名前ももらってます。タケル・カイドウ・フォーサイス。ここはフォーサイス領です」
タケルってば伯爵様だったんだね。てっきりプーだと思ってたよ。領地持ってるってのは知ってたけど、伯爵とは......驚いて言葉もでないよ。
「ルドリアさんも食べませんか? シチューくらいしかないですが」
「食べさせてもらえるんですか?」
ルドリアさんはとても嬉しそうです。私はお皿にシチューをよそってタケルの横の席に置いた。
ルドリアさんはタケルの横に座ってシチューを食べはじめた。
「これは......美味しいです。なんとも絶妙な味です」
この後はタケルもルドリアさんも無言でガツガツと食べてた。私とクリリはデザートのプリンを食べながら彼らが食べ終わるのを待つことにした。
「それではこのシチューに入ってた野菜をあの畑で育てたらいいんですね」
「他にも色々蒔いた。後で説明しよう」
タケルにプリンを催促されたので仕方なく渡す。ルドリアさんは開け方がわからないみたいだったけど、タケルの真似をしてフタを開けた。
「ナナミさん、花の種はないですか?」
「花ですか?」
「はい。私の母が花を育てるのが好きで変わった花の種があったら喜ぶと思うんです」
お母さんの為かぁ。ルドリアさんは優しいですね。百均開いて今の時期に植える種を探す。
「マリーゴールドと日日草とミニひまわりの種を渡しますね。どんな花が咲くか絵もあるからわかりやすいでしょ?」
ルドリアさんに種を渡すとびっくりした顔をした。
「この絵はとても鮮明ですね。確かにどんな花かわかります。母も喜びます。ただこんな綺麗な絵が描かれてるともしかしてこの花の種はとても高いものですか?」
絵って言ったけど写真なんだよね。野菜の種や花の種を売るときもこの写真については聞かれそうな気がするな。上手な絵で通らないものか......。
「種はそんなに高くないですから受け取ってください。きちんと育ったか感想聞かせてくれたら嬉しいです」
「ありがとうございます。珍しい花で母も喜びます。絶対に育ててみせますよ」
その後プリンを食べたルドリアさんはこんな美味しいものは生まれてはじめて食べたと大絶賛だった。ーールドリアさんってちょっと大袈裟な人だなぁ。
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