第41話クリス様と勇者タケルside



「じゃあ、また明日」


タケルは手を振って店を後にした。


「ん?隠れてないで、出てこいよクリス」


「隠れてませんよ、話があったので待ってただけです」


クリスは建物の陰からでてきた。


「早いな。もう家が見つかったのか?」


「家なら数軒心当たりがありますが、その前に聞いておきたいことがあります。タケルは本当にここに居座る気ですか?」


「さっきも言っただろう。ナナミの店には、この2年間旅をしながら探し求めてたものがあるんだ。離れる気はない」


きっぱりとタケルは答える。


「そうか。わかったよ。だったらタケルにもナナミの安全をきにかけてもらいたい。女一人で商売してると、危ない奴らが湧いて出てくるから。この店は魔法で守られてるから夜は大丈夫だが、昼間とか客のふりして現れるかもしれないからね」


「もとよりそのつもりだ。今、ナナミを失ったら俺はこの世界を滅ぼしてしまうかもしれないからな」


クリスはギョッとした顔で絶句している。


「はっはっは。そんな顔をするな。冗談だよ、冗談」


タケルは笑っているが、冗談には見えないとクリスは思った。確かにこの世界を滅ぼすというのは冗談なのかもしれないが、この街、いやこの国ぐらいは滅ぼしそうだ。


「ナナミのところで売ってるカップ麺とかは、故郷にあったものと同じものなのですか?」


「いや、全く同じではないな。どん兵○や一○ちゃんはないからな。でも似たものでもいいんだ。もう食べれないと思っていたからな」


「そうですか。俺にはどうしても食べたいものというのはありませんーーいえ、そうですね。ちゃんぽんはもう一度食べてみたいです」


クリスは先ほど食べたいちゃんぽん麺に感動していた。スープの味も絶品だった。


「そうか。でも他にもいろいろ食べたほうがいいぞ。もっと食べたいものが出てくるさ。きっとな」


タケルは意味深に笑った。


クリスはそのまま家を案内することにした。ここからそれほど離れていない場所に一軒ある。


「ここは、異臭がすごくてあまり人気がありません。ですがその分格安です」


「臭いな。なんの臭いだ?」


「肉の臭いです。前にここで魔物を解体していたようで、魔法で消臭しても何故か臭いが落ちないようです」


「却下だ」


タケルは鼻をつまんで首も降る。魔法で消臭しても臭いが消えないとは、祟りのようではないか。


「やっぱり駄目ですか。あなたなら買ってくれるかもと思ったのですが」


「壊したほうがいいんじゃないか? こんなに臭いと売れないだろう」


「そうですね。話には聞いていたのですがここまで臭うとは思ってませんでした。更地にした方が有効活用できそうです。父上に報告しておきましょう」


次に案内されたのはナナミの店から歩いて15分くらいの場所である。庭もあり、部屋も一階に2部屋、2階に3部屋と結構広い。


「少し広いな。」


「一人暮らしには広いですが、勇者様の別宅としてはこの位あった方がいいと思いますよ。もう一軒も大きさとしては変わりません。こちらの方がナナミの店に近いですがどうされますか? 後は町の不動産に行けばもう何軒かありそうですが......」


「ここに決めるよ。手続きしてくれ。いつから住めるようになる?」


「支払いが済めばすぐにでも住めます」


「じゃ、今から邸の方に一緒に行こう。支払いを済ませとくよ。早く住みたいからな」


クリスとタケルは肩を並べて家から出た。どこからともなく馬車が現れ止まった。


「どうぞお乗りください。」


動じる風もなくクリスが言った。ここで決まることがクリスには解っていたようだった。




















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