穴~るぴ~じ~! ―ゲームの世界と繋がった!?―
染井 藍
プロローグ
プロローグ
マズイ。非常にマズイ。
何がマズイって、そのマズイ理由もわからないくらいマズイ。
一体全体、どうしてこうなった。
「おーい、シオン。返事しろよー」
俺を呼ぶ声が目の前の毛布の中から聞こえてくる。
家族に隠れて犬猫を拾ってきたわけでもない。そも犬猫は喋らないし、毛布の中に誰かが隠れているわけでもない。
毛布の中にあるのは、俺の横においてあるPCに繋がれたディスプレイだけだ。
「シオンってばー。おいコラ! 聞こえてんだろ!」
ディスプレイから声が聞こえてきても不思議じゃないだろって?
俺はヌカイプも起動してないし、他の通話ソフトだって入れてない。それにだ、ディスプレイにはヘッドフォンが繋がっている。
そんな状況で声がディスプレイの中央から聞こえてくるんだ。思わず毛布をぶっ掛けてしまうってのもしかたないだろう。
「んだよコレ……うぉ!? すげぇ手触りいいなこの毛布! なぁなぁ! これくれよ! 高値で売れるぞ!」
そりゃ長い年月をかけて人間が作り上げた寝具だ。しかも父親が会社の上司からお歳暮で贈られてきたやつだからな。寝心地も最高だぞ。
「ああ、そうか。これは夢か」
そうだ。これは夢だ。俺はこの手触り最高の毛布に包まれて、ベッドで寝ているんだ。きっとそうに決まって――
「夢? なに言ってんだよ、シオン。いいからこの毛布くれよ。これくらいなら入るだろ?」
俺に夢を見せているはずの毛布が、ずるずると引っ張られ”穴“の中に消えてゆく。毛布の端までずるりと穴に吸い込まれると、ディスプレイだけが俺の目の前に現れる。
被せた毛布がなくなったディスプレイには、直径三十センチもないくらいの穴が空いていた。
「おお、すげぇなこの穴! 本当にそっちから物を取れたぞ! なぁシオン、他に金になりそうな……おいシオン、頭なんて抱えてどうした。大丈夫か?」
穴の中で、俺を心配するような声が聞こえてくる。
……ああ、そうだな。なんたって厚さが五センチもないディスプレイの中に、俺が包まれる大きさの毛布を強奪されたんだ。そんなん、誰だって頭を抱えるだろ。
「もしかしてコレ、そんなに大事なモンだったのか? そんな顔するなって。すまなかった。返すからさ」
頭を抱えてる理由はソッチじゃないんだけどなぁ……
穴の中から声の人物が、奪い取った毛布をディスプレイに空いた穴から差し出す。俺が毛布の端を掴み引っ張ると、ずるずると穴から毛布が戻ってくる。千切れたり破れたりなんてしていない。ただこの短時間で、部屋ではない何処か別の場所の空気が染み込んでいる気がした。
……マジか。これ、マジなのか。
「つーか不思議だよなー、この穴。あっ!? なぁなぁ! それなんだよ! 飲みもんか!?」
机の上に置かれた俺のジュースに興味を持った声の主が、穴から腕が生やし――いや、伸ばしてきた。
傍から見たらすっげぇシュールな光景だな、おい。
画面から腕が生えてる~! 動いてるすご~い! でも気持ちわる~い! まるで夢みた~い!
でも、これは現実らしい。さっきから抓っている頬が痛い。もうね、泣きそう。
「…………マジで勘弁してくれよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
さっきまで俺は、PCでRPGをプレイしていただけのはず。それがどうして、本当に、ほんっっっとうにどうして、こうなったんだよ……!!!
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