OneBullet
@mitomaru
The Beginning
第1話 最悪の目覚め
うだるような熱さで目が覚める。
開眼一番に飛び込んできた景色は、黒煙で覆い尽くされた真っ黒な空だった。
気づけば僕は天を仰いで倒れていた。
近くで何かが燃えているのだろうか。
どこからか吐き出される熱がチリチリと皮膚の表面を刺す様に刺激した。
「うっ……。」
起き上がる。
錆び付いた部品の様に身体の軋む音が聞こえた。全身のあっちこっちが痛い。
どうやらかなりの時間倒れてたらしい。
頭から流れでている血が顔の輪郭に沿って地面へと滴り落ちた。
「なんでこんなところに…。」
僕は街の中心を横切る大きな道の上で倒れていた。
こんな所で横になった覚えはない。
覚えている最後の記憶は、鼓膜を破るような爆音と体が吹き飛ばされる感覚。
ただそれだけだ。その後の記憶は無い。
どうやら僕は失神していたらしい。
辺りを見渡すと、散々たる状況が広がっていた。
街は建物という建物が破壊され、至るところで炎があがっていた。
壁のあっちこっちに大きく抉られたような穴や銃痕が刻まれ、今もなお、何かが爆発しているような爆音が立て続けに鳴っていて、少し遠いが銃声も鳴り響いていた。
「おい!! 坊主! ここは危険だ!!早く逃げろ!!」
通りすがる、全身がススで真っ黒になっている男が僕に叫んだ。そのまま、余裕のない表情で一目散に駆け出し人混みへと消えていく。
街中では多くの悲鳴や怒号が飛びかい、大人や子供、街の住民達が一斉に街の外へと逃げ出していた。
何なんだ、いったい。
何が起きているのか全然理解が追いつかない。
(やばいな…ボッーとする。)
どうやら、吹き飛ばされた時に頭を打ったらしい。ようやく血は止まったが、頭の中が痺れていてうまく考えられなかった。
今、目の前で起きている状況が、現実とは離れている様な感じ…。そう、悪い夢でもみてる様な気がした。
「ゴホッ、ゴホッ。」
炎から流れ出てる黒い煙が喉を刺激する。
もう煙は街全体を覆い尽くしていた。
ここに火の手が移るのも時間の問題かもしれない。
(あの人が言った通りここは危険かもな…。)
とりあえず今は煙の無い場所まで移動しないと。
ぼんやりとそんな事を考えながら、歩き出す。気がつけばもうこのあたりは僕1人だけになっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
逃げ出していった人達と同じ方向を目指して向かう。
どうしても走る気にはなれず、トボトボとゾンビのように歩いていた。
すっかり廃墟と成り果てた街が横目に流れる。
やっぱり現実とは思えない。やけにリアルだけど、本当は夢なんじゃないだろうか?
白昼夢のように景色が映る。
夢なら早く覚めてほしい。
道の途中、水道管が破裂して水が噴水の様に溢れ出していた。
(そういえば…喉、乾いたな。)
長時間、火のある所にいたせいだろうか。もう喉はカラカラだった。
乾燥した喉を潤す為、破裂した水道管の方へと足を進める。
ーーガッ。
数歩進んだと思うと、不意に足が止まった。いや、止めさせられた。
何かに右足を掴まれた様な感覚がする。
ゆっくりと振り返る。
そこには身体の半分が焼けた男が倒れた状態で僕の足を掴んでいた。
全身が血や肉で赤く染まっている。
そのねっとりと血がついた手は恐ろしいほどの力で僕の足にしがみついていた。
男の開き切った血眼に僕の顔が映り、その焼けただれた唇からは微かな息とうなり声が洩れていた。
その瞬間、実感した。
これは現実だ。
一気に恐怖が全身へと広がり、同時に身体を支配した。
「うわぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
叫び、必死に足を振り回す。
(離せ!!離せ!!!離せっ!!!!!)
全力で足から男を引き離す。
「うぅっ……。……。」
足首から手が離れた。
男の手はそのまま力なく倒れる。
痺れていた頭の中が覚めて、今度はパニックに陥った。
逃げなきゃ!!逃げなきゃ!!ここから、早く!!
駆け出す。速く!もっと速く!!
無我夢中で街の出口へと全力疾走する。
足が震えて何度も転びそうになりながらも、どうにか前へと進んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ーー走る、走る。
街の出口に向けて止まることなくひたすら走った。崩れかけの橋を飛び越えて街の正門へと向かう。
後は、あそこから出ればこの街から逃げられる。
もうすぐそこだ。
あと少しで、僕は助かる!助かるんだ!!!
「アハハハハハハハハッ!アハハハッ!」
一気に安堵の気持ちがこみ上げ、狂った様な笑いが口元から零れた。
無論、楽しいからじゃない。助かる事への安心が僕に狂気じみた笑いを生み出させていた。
門に近づくに連れてその気待ちは大きくなり、それに比例して走るスピードも加速した。
正門まであと少し。
その先に何かが見えた。
笑みが消える。
「そんな……。なんで……。」
そこは地獄絵図だった。
さっきまで逃げ出していた人達が重なるようにして倒れている。
地面は赤く染まり、吸いきれなかった赤い液体がその範囲を広げていった。
誰一人として動かない。
全員、死んでいた。
ーーーシュン。
刹那、空気を切り裂く音共に、立ち止まった僕のすぐ側の地面が弾けた。
下を見るとまだ放たれたばかりの黒い鉛の塊が深く地面に刺さり熱を放出している。
それが何かを理解した瞬間、腰を抜かした。
(あぁ、もうダメだ。もう死ぬ。)
その弾丸が飛んできた方向を見る。
3人の赤い服を着た男達が銃を持ちながら何かもめていた。
距離はそこまで遠くない。こっちまでその声が漏れてきている。
「正気ですか!? まだ、子供ですよ!!」
1人の男が他の男達が撃てないように射線を塞いでいた。
「どけ!!!殲滅しろとの命令だ!!誰だろうと関係ない!!」
髭面の男が怒鳴る。
「………。」
もう1人、背の高い男は黙ってこちらへと銃口を向けて死んだ様な目でただ僕を見つめていた。
その指は引き金に触れている。
やばい。もう本当にやばい。殺される。
歯がカタカタ鳴る。恐怖で全身が震える。
嫌だ。嫌だ!死にたくない!!
誰か…誰か助けて…!
「目、塞いで!!!」
大声と共に何かが僕の目の前へと降ってくる。
爆発。
キーンッという頭の割れそうな音と共に視界が真っ白に染まる。
「クソッ! …フラッシュグレネードか!?」
痺れた聴覚に髭面の男が声が微かに通る。
僕は、腕を誰かにつかまれて立たされた。
「逃げるよ!!」
そう聞こえた。さっきと同じ声。
そのまま僕は、引っ張られるようにして走りだした。
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