ゼロ・レイス -zero leiace-
ヨ
序章
zero leiace
生まれてから三つ歳の間に左腕が自然金剛物へと変化し、やがてその形状はブレードを主とする刃となって行く。星の異常か、はたまた先鋭科学の副産物か、それは誰にも知る術は無い。
――ただ生まれて行く、という事実だけがそこにはあった。
自然金剛物『
この無因果物質は人を傷つける事など無縁の生活を期待された子供達を次々と冷酷なソルジャーへと変貌させた。全てはこの国この世界のせいだ、何が自然だ、本当は国の偉い奴等が創りだした毒物だ、そうに決まっている、と、言いたくもなるだろう。異能の力を慈悲など何処かに置き忘れてきた素振りでもぎ取り手に入れ、自らを大戦国家とまで名乗りだした、誰が見ても何かが腐敗した一つの国の様を知れば、恐らくは、誰もが。
大戦国家バドラル。
事実、自然金剛物など国家が民に向けた発表のために設定されたただの名称であり、その実態は突如現れ出た謎の物質のままだ。そんな誰にでも解る白々しい発表と繰り返される暴政に耐えかね、次々と反政府軍が立ち上がるも、たった一人の子供にその全てが壊滅させられたという。国家は、自然金剛物に支配された一人の子供の情報を得た日を境に『ゼロ・レイス』と名付けられた異能の子供達を調査・捕獲・兵器化し、悍ましいまでの軍事強化を続けてきた。ただ左腕がブレード状の金属に変わったからという安易な理由だけでは説明が付かないその破壊の力は、『
また一人、小さな命は過酷な運命と共にその産声をあげた。
『
因果無く発生するであろう十八番目の物質としてこの名が付いていた。過去十七の無因果物質は、それを受け負った全ての人間がバドラル兵に捕獲され、ゼロ・レイスとして徴兵、または戦場に赴いたと軍告は報じている。その事実を知らぬ者はいないが、軍の発表のみが真実となる世の中だった。
調査兵がやって来た時は、まだ乳飲み子だった我が子の口を布で縛り、製鉄場の焼炉付近に乱雑に置かれた塵箱の一つの奥底に潜ませ、工場にある限りの大きな装置の電源を入れた騒音で漏れる声をかき消した。どれだけ痛がらせても辛い思いをさせても、抱き上げた時の笑顔が全てを許してくれる気がした。この子に訪れる平和を願い、小さな島国の言葉で『喜びの羽』という意味を込めて「キトリ」と名付け、懸賞金がかかったゼロ・レイスの種子を誰の目にも見せる事無く育てた。
十一年。
両親はキトリを他の誰の手に渡る事も、誰の目に触れさせる事も無いまま育て続けてきた。何も変わらない。この子は他の子供達と何も変わらない。食事を美味しいと言い、人が傷つくのは怖いと言い、私達を愛していると言う。このまま続く――たった一つの障壁など隠してしまえば。隠し通せば済むだけの話だとその胸中に刻んで、涙を心の奥深くに閉じ込めて日々を過ごした。
――時を同じくして、バドラル国が
忘れてはならない 一人の少年の物語。
心を持った
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