空白の席(SS)

潮音

空白の席

明日は卒業式だ。


大好きな先輩がこの学校からいなくなる日、僕はまた告白できなかった。

否、ただの臆病風に吹かれた情けない後輩として先輩の記憶に止まれたら良いな。

足取り重く、先輩の教室へ向かう。

まるで自分が卒業生のような錯覚を受けるが勘違いをしてならない。

誰もいない無人の教室、教卓の上に無造作に置かれた出席簿を勝手に見て、先輩の席を探す。


あった、一番後ろの窓際。早足でその席へ向かう。

あと1年早く生まれていれば、あわよくばこの教室でなんて叶いもしない妄想を巡らせる。

先輩の席の机を撫でる。

少しざらつく木の感触。感傷に耽っている場合ではないと急いでカバンからラブレターを取り出して机に入れる。

未来はもうわかっている。僕がこの手紙を書いている時、見えてしまったから。

先輩がこの手紙に気がつかず教室を出て行ってしまうそんな未来。

無駄な抵抗かもしれないが自己満足の一環だと頭を振り払い、教室を出た。

今日も空が綺麗だ。






私はまた一年を繰り返してしまう。そう、何度でも何度でも。

理由は今もわからずじまい。だけどこのループに気づかずに何度も笑いかけてくれる後輩に申し訳なさを感じる。

彼からのラブレターは3回目のループで気がついた。

でも気づかないふりをしている。

私が卒業する前日に席に入れられた一通の思い。

自惚れてはならない。何としてでもこのループから脱出するまで。

だからその時まで待ってて。

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