カウントダウン

淋漓堂

第1話

「あれ? この日何かあったかな」

 壁に掛けられたカレンダーに、見覚えのない赤い丸印が付いている。

「おい、お前カレンダーに丸付けたか?」

「付けてないわよ」

 妻に聞いても違うと言う。子どもはまだここまで手が届かない。

 綺麗な丸印の付けられた日は、12月31日。仕事は休みに入っているし、誰かの誕生日でも記念日でもない。

「あと10日か……」

 気にはなったが、いつも通りに家を出て会社へ向かった。もうすぐクリスマスということもあって、街も綺麗に飾り付けられている。心なしか行き交う人々も浮足立っているように見える。

「おはようございます」

「おはよう」

 出社しても、なんとなく落ち着かない。今朝カレンダーを見たときから、何かが引っ掛かっている。しかし、大晦日に何があるのか分からない。寧ろそれより、何故かクリスマスが気にかかる。子どもがサンタクロースにお願いした玩具はすでに用意してあるというのに――。

「……係長?」

 部下に呼ばれて我に返る。

「あ……っと、何かな?」

「忘年会なんですが、26日でいいですか?」

「今のところ何の予定もないし、いいんじゃないかな」

「じゃ、空けといてくださいね」

「了解」

 机上にあるカレンダーの26日に印を付けようとして手が止まる。

 職場のカレンダーにも、何故か12月31日に赤い丸印が付いていた。



 その日から俺は寝る前に、カレンダーの日付にバツ印を付けることにした。

 12月31日に何があるのか分からないが、きっと何かのイベントに違いない。今日は21日……あと10日。そう思いながら21日を消した瞬間、背筋がゾクッとした。

「……なんなんだ?」

 なんとなく募る不安を打ち消すように首を振り、居間の電気を消した。



 22日、23日と特に何事もなく過ぎ、カレンダーにバツ印が増えていく。そして今日は24日。仕事から帰り家族でケーキを食べ、夜更けに子供の枕元にそっとプレゼントを置く。

「なあ……本当にお前が丸印つけたんじゃないんだな?」

 風呂上りにビールを飲みながら妻に聞いてみた。

「しつこいわね。あなた誰かと忘年会の約束でもしたんじゃないの?」

「忘年会は26日だ」

「あ、そう。私はもう寝るわ。おやすみなさい」

「おやすみ……」

 今、何かを思い出しそうだった。忘年会ではない。妻は何と言ったか――

「約……束? 何の?」

 分からない。結局思い出せないままに、カレンダーにバツ印をつける。それはまるで、丸印の日に向けてカウントダウンしているみたいだった。あと一週間。そう思いながら眠りについた。

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