清流

 水は形がない。

 それは当たり前のことで、自然の理なのだけれど。

 畝り、ぶつかり、飛び散る。

 そんな形に人は惹かれる。形のないものが、ひとときだけ形をとるとき、そこに人は惹かれる。


 水に音はない。

 それは当たり前のことで、自然の理なのだけれど。

 滝の、波の、せせらぎの。

 そんな音に人は惹かれる。音のないものが、蠢き大きな振動を作るとき、そこに人は惹かれる。


 水に色はない。

 それは当たり前のことで、自然の理なのだけれど。

 海の、池の、掌の。

 そんな色に人は惹かれる。色のないものが、底の色に合わせて青に黒に透明に変わるとき、そこに人は惹かれる。


 人には形も音も色もある。

 すべてを持つ人。

 何かが起きなければ何も持たない水。

 美しいのは、どちらなのだろう。

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