いただきます

エンジニア

Apéritif(食前酒) プロローグ

銀河座は今日も明るい。

母艦から繰り出す宇宙タクシーは、様々な知的生命体を乗せ、銀河座のあちこちを行き交っている。


宇宙タクシーが向かう先はバリエーション豊かだ。


デパート、土産物屋、劇場、スタジアム、カフェ、服屋、星動産、コールドスリープホテル、ここでは言えないようなお店、


そして、レストラン。


レストランに向かう旅行者必携のガイドがある。


ギャラクシュラン。


銀河座を中心とする惑星群の中で、その名前を知らないものはいないほど有名なガイドだ。

ギャラクシュランに掲載されている三ツ星レストランの90パーセントはこの銀河座の中にある。

銀河座に何かを食べに来て、食べたものの話を旅話として語り継ぐ。

語り継がれた味は惑星を跨いで伝わり、また銀河座においしいものを食べに客が押し寄せる。

食事は異星人の間でも共通的な話題、興味として存在していた。


新しい味にチャレンジするレストラン。

昔からの味を守り続けるレストラン。

頬っぺたが溶解するレストラン。

ゲテモノを極めたレストラン。

宇宙一の辛さを謳ったレストラン。


そんなレストランの噂は、惑星を超え、文化を超え、種族を超え、広まっていく。

そして、ギャラクシュラン調査員の耳に入ると、調査員は覆面でレストランの味を確かめに行く。


光速で数年かかる場合は、コールドスリープを使って。

現地の環境が自身の生態に適さない場合は、サイボーグとなって。


彼らの食に対する情熱は、ガイドの信用力に大きく寄与した。


今日もギャラクシュラン三ツ星レストランは大盛況だ。

宇宙タクシーの列が、数キロ連なっている。


そんな三ツ星レストランが山ほどある銀河座のレストランの中で、今日も開店休業状態となっているレストランがあった。


「ライブ・ナ・ライブ」


看板は傾き、営業しているかどうか判断が付かない。

OPENという文字の中、Nの文字のネオンが消えていることもいただけない。

暗い宇宙のなか、OPEという紫色の怪しいネオンが現れたら、それは見なかったことにするのが賢明である。


珍しくライブ・ナ・ライブに宇宙タクシーが乗りつけている

宇宙タクシーには一人の人間が乗っていた。

人間はOPEのネオンを見て、笑った。


初めの仕事はNを点けてやることかと、笑った。

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