最終話 糸

「ねえ。リック」

「なに?」


 結婚式まであと数日に迫っていた。式次第を見ていた私の背後から、しずちゃんが首に腕を回してのしかかった。


「やっとさあ、リックがこなれてきたかなって思う」

「そりゃあ、そうでしょ」

「そう?」

「だって、丁寧な言い方したら罰金取るって言うんだもの」

「ですますで言われたら他人行儀じゃん。夫婦なんだから地で行こうよ」

「そうは言ってもねえ。うっかりお客さんの前で砕けた言い方しちゃったら、失礼になりますからねえ」

「百円!」


 げー。しぶしぶ財布から百円玉を出す。むふふ笑いを浮かべたしずちゃんに言い返す。


「洗濯は終わったの?」

「あー! しまったあ! 入れっぱなし」


 私は財布から出した百円玉を元に戻して、しずちゃんのおでこを一つ、指でぴんと弾いた。


「てっ」

「しっかりしてよ。すぐに臭い付いちゃうんだから」

「へーい」


 私からぱっと離れて、しずちゃんがぱたぱた洗面所に走っていった。その背中に。私は……糸を見る。しっかり私と繋がった糸。きらきらと輝きながら、それは未来へ繋がっていく。

 

 どこまでも。


 ……どこまでも。



<< FIN >>

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