第4話 もう一人の探偵

━━颯爽と歩く細身の青年は、女性を見るたびに話し掛けていた━━


「やぁ、お嬢さん。聞きたいことがあるんだ。いいかな?」


優しい爽やかな笑顔で、女性を見つめる。キレイな顔で見つめられ、女性は顔を赤らめた。女性的な顔立ちの華奢な体つき。優男な風体。


「最近、この近くで『殺人事件』が多発していると聞いたのだけど、なにか知らない?」


殺人事件と聞かれ、顔が強ばる。それもそうだ。つい先日、男性が殺された。ニュースは、この話で持ちきりだし、この周辺で起きたのだから。


「よ、よくは知りませんけど、『殺人姫』が現れたらしいですよ?怖いですよね。自分の身近でこんなことが起きるだなんて……。」


真顔で見つめられ、ぼうっとなる。


「……キレイな女の子って噂だね。男性ばかりが狙われている……。だけど、君みたいな可愛い子も狙われないとは、保証されない。気を付けてね。」


ニュース以上の情報が得られないと感じたのか、微笑んで立ち去った。惚けた女性を残して。


「……男に聞くのは面倒だな。可愛い女の子と話したいし。でも、男じゃなきゃ話にならないから困るよ。」


溜め息混じりに、拓けた場所に向かう。目的地などはない。いつ、どこに現れるかなんてわからないのだから。ひたすら歩くしかないのだ。


◇◆◇◆◇◆◇


「……見つけた!!」


ガッと肩を捕まれる。振り向かなくても誰かは分かった。別段、驚きもせずに答える。


「『かおる』、邪魔をしにきたの?出来れば、って呼んでくれよ。」


飄々と告げた。


「はぁ?無理無理。『めぐみねぇ』、諦めろって。」


心底嫌そうな顔をして振り替える。そこにいたのは、微妙に伸びた髪を無造作に一本にした、タンクトップとショートパンツの出で立ちの男勝りな女性。ニヤニヤとこちらを向き、笑っている。

対してこちらは、肩に掛からないくらいのサラサラストレートに、パンツスーツ。体のラインは全くわからない。二人とも、口調からは女性とは思われないだろう。


先程女性に話し掛けていた方は、愛野あいのめぐみ。仕草も立ち振舞いも、男性的である。

彼女を姉と呼ぶ、かおる。こちらは薄着のために、ラインが女性だとわかる。


「どちらでも構わないけど、僕の邪魔だけはしないでよ。に会いたいんだからさ。」


「どんだけだよ?姉貴、ホントに女の子にしか興味ないのな。」


「何をいっているんだい?サイコパス的な美少女だなんて、すごい魅力じゃないか。」


何言ってるんだ、と顔で応える。


「……姉貴、どう頑張っても、あんたは対象外だからやめとけよ。しかも勘違いだったら、めっちゃハズいし。」


「ふっ、僕を誰だと思ってるんだい?」


「あたしの残念な姉貴。」


ガクッとコントなリアクション。


「バカな愚妹に言ってやろう……。僕こそが、名高い『名探偵・メグ』だ。」


「……それを言うなら、迷探偵だろ?に迷惑掛けておいてよく言えるよな。神経の図太さには恐れ入るわ。」


◆◇◆◇◆◇◆◇


こうらんは郁の友人であり、萌が毎度お騒がせしている警察関係者だ。彼女の存在は一般的には知られておらず、警察関係でも上層部しか知らないだ。父親が警視総監、兄が警視正をしている。襲名制のない現代で親子が並ぶことはない。実力主義だからだ。その中で親子で警視総監と警視正が出来るのは、相当な能力を求められる。こうらんは未来の警視総監として期待され、高校生にしては稀な扱いをされていた。

表向きは、若者に人気の女子高生アイドルユニット『M&K』として活躍している。その実態は警察暗部を一掃する、特別プロジェクトの総指揮官を勤めるほどの秀才なのである。天は二物を与えないとはよくいったものだが、彼女は特別なようだ。


しかし、友人の姉だからと贔屓はしない。きちんと精査している。


◆◇◆◇◆◇◆


「毎回、こうらんちゃんに頼ったりはしないさ。推理出来るのにしないのでは、宝の持ち腐れになってしまうからね。」


「どの口が言ってやがるんだか……。じゃあ、その迷推理を披露してもらえませんかね?」


待っていたとばかりの、勝ち誇ったどや顔。


「……ボクはね?殺されている者たちには、何らかの共通点があると踏んでいる。」


だ、って今更言うなよ?」


「そんなことは誰もが知っているじゃないか。僕が言いたいのは別物だ。が如何にもを顕していると思わないか?」


服数回の腹部への刺し方、心臓部への刺し方、そして、陰部への刺し方。すべてが、そう思わせるのに十分である。


「グロいあれなぁ……。」


「公表された10件にも似た事件があるやもしれない。彼女にそうさせてしまうような、そんな切っ掛けが。……前科や未遂でも探してみたら、意外な共通点が見つかるかもしれないよ。男ってのはな生き物だからね。犯罪に至るか至らないかは別として。」


「十人十色千差万別っていうじゃねぇか。婦女暴行やそれに付随する事件なんて、ゴマンとあるだろ。彼女がレイプされたから、男を憎んでいるとでも言いたいのかよ?」


「……彼女が?そんなことがあったなら、僕が犯人を!むがっ!」


脱線を始めたので口を塞ぐ。


「可能性の話だっつぅの!」


こんな他愛もないやり取りだが、ピンポイントで毎回ついてくるので、情報提供としてはかなり役に立つ。問題は、本人にがないことだ。萌の思いつきを郁が纏めて報告する。頭が空っぽの方が使えたりすることが悲しい現実に他ならない。

腐っても女性、ならではというところだろうか。

萌にが起こした事件も見聞するやる気があれば、更に踏み込めるかもしれない。

如何せん、男性には興味がないことが、萌の限界が近い理由である。


このあとまだ独自ナンパ方式が続くが、エンドレスになるので、割愛する。


斯くして郁は、萌の代わりにこうらんに説明する、いつものスタイルを貫いた。本人が伝えたのなら、きっと会話にならないだろうから。

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