救いと祈り
てとら
この話について
イエス・キリストのこと
救い主、イエス・キリストの生まれたことから、物語は始まっている。
ナザレのイエスというのが通称として呼ばれていた。
イエスは大工の息子として、そしてマリアの子とも言われた。
通常は父の名前で名乗ることが鉄則のようだったが、イエスだけは違って、母親の名を名乗っていた。
それは彼が私生児であることを物語ってもいる。
イエスの母マリアには、かつてパンテラという兵士との恋仲が噂された。
しかし何らかの理由により、彼らは引き裂かれたのだという。
あるいはパンテラに強姦をされたのか、さだかではないが、ともかくイエスは、マリアの子としての人生が幕を開けることになる。
ヨセフは婚約したばかりのマリアが婚前に懐妊したことを知ると、ひそかに離縁しようとした。
なぜならヨセフの家はアブラハムから始まって二代目ヤコブを父とする偉大な家計だったので、マリアの懐妊は恥に思えた。
ところが神の声が聞こえ、安心して結婚するようにと言われると、そのとおりにした。
古代のユダヤ社会においては婚前交渉というのは、あってはならない行為だったので、ヨセフも思い悩んだことであろう。
しかし、天の声によりて、ヨセフは決心することになる。
こうしてマリアは大工のヨセフと結婚し、イエスはすくすくと育った。
ヨセフとしても実の子のようにかわいがり、ときに厳しくしていた。
ベツレヘムの王ヘロデは、イエスを慕う三人の学者たちから新しい王の話を聞かされ、エルサレムの民らと共に怯えた。
そして、二歳以下の幼児をことごとく殺すように命じた。
三人の預言者たちは、イエス親子にエジプトへ逃げるようにと教え、自分たちは違うルートから逃げ出した。
その一人がエレミアという者で、エレミアは、ラマで幼児らのすすり泣く声が聞こえると伝えている。
イエスは三十歳になると、父のあとを継ぎ、立派な大工を志していたこともあったが、あるとき、近くの川で洗礼者ヨハネと出会い、ヨハネはそれでは逆です、あなたから洗礼を受けるべき立場ですのに、と答えたが、それでもイエスはヨハネを師と仰ぎ、ヨハネから洗礼(バプテスマ)を受けた。
イエスはユダヤ教をことごとく批判したため、ユダヤの最高法院からローマの長官ピラトに引き渡され、磔刑とされる。
イエスは人々のすべての罪を背負いながら、十字架にはりつけられ、徐々に生命を失った。
イエスの足元ですがって泣き崩れるマリアは、聖母というよりも、年老いた母親であったという。
イエスの死後にキリスト教を批判していたユダヤ人サウロという青年がいた。
サウロは使徒たちを痛めつけている側にあったが、弟子たちの勇敢さ、信心深さにうたれ、彼自身もローマ市民権を得てパウロと名を変え、弟子の一人となった。
これが、これから語る物語への序章である。
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