純白の日にバタースコッチを
陽乃 雪
純白の日にバタースコッチを
またこの日が巡って来た。
街中を彩る広告の数々に、今年も返す相手がいない俺はふぅーと細く白い息を吐く。
卒業して二年。
寮の隣室に引っ越してきたあいつは、今も元気にしているのだろうか。
高二の始業式、遠くから編入してきたあいつは俺が声をかけてからずっと、ガキみたいに俺のあとをついて回ってきた。
俺を呼ぶあいつの声に軽く後ろを向けば、ウサギみたいな丸い目でこっちをじぃっと見つめてきて、まともに目を合わせられなかったことを今でもよく覚えている。
最初はただの父性愛みたいなものだと思っていた。
だけどあいつへの想いは日に日に大きくなってきて、いつの間にかはっきりと見える形で俺の前に現れてきたんだ。
最初は何かの間違いだと思った。
あいつのことは極力考えないようにした。バレンタインの日に告白してきた、どこの高校かも知らないような女子と付き合いもした。
そして気付いた時にはもう手遅れだった。
そんなことをしていた時点で、答えはもうわかりきっていたのに。
──まだ捨てきれていないなんて。
捨てられるわけないだろ、と泣き声を漏らす心の声に自嘲する。
卒業してからどこに行ったかもわからない、連絡をとりもしていないあいつのことなんて、もう忘れるべきなのに。
ふと前方を見ると、店じまいの準備を始めようとするケーキ屋があった。そのまわりでは同じ紙袋を持った男達が、嬉しそうに電話をかけている。
店前のテーブルの上、大量に残ったバタースコッチキャンディーが俺の目にとまった。
男達が持つ紙袋の大きさから察するに、あの中には箱入りのクッキーでも入っているのだろう。
馬鹿だな。
その手に持つモノの意味も知らずに、あの男達は電話の先にいる人と楽しげに話をしているのか。
……いや、違う。
好きなやつに自分の想いひとつも伝えられない俺の方が、よっほど大馬鹿者に違いない。
慰めに一箱くらいは許されるだろう。
その中にある、長く続く甘さを思い浮かべながら俺は店員に声をかけた。
「すみません。それ、一箱」
純白の日にバタースコッチを 陽乃 雪 @Snow-in-the_sun
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