”クズ”たちは傷口を抉り合う

バブる

第1話 財布泥棒(パンツは未遂)

 妹の部屋で財布を物色していると、ご本人が登場なさった。

「お兄ぃ…」

 お風呂あがりの湯気をほかほかと立てて、身体にはタオルを巻いている。

 目を血走らせ、肩を怒らせていた。

 失敗か。遅かった。

 財布からお金を頂戴するまえに、うっかりタンスの隙間から覗く下着(くまさん)に目を奪われてしまったことが敗因。

「またお金、とろうとしてたの?」

「それがどうした」

 バレてしまっては仕方ない。

「開きなおらないでよ…。あーあーもうほんっとにどうしようもない。

 お金が欲しいんだったら、バイトすればいいでしょ」

「いいや、やだね」

「……」

「学生の本分は勉強だ。バイトなんぞに現を抜かしてられるか」

 わざとらしく大きなため息をつかれた。

「去年の学期末の成績の話する?」

「やめろ」

 下から数えたほうが早かった。

「両立してがんばってる人だっていくらでもいるよ?」

「はいはい紗良はえらい」

 ぷちん、と紗良のなかで何かが切れる音がした。

 しまった、キれる。

「そんじゃオレ勉強するんで……」

「待て」

 逃さぬように、衣服をつままれる。

「はい」

「五百円玉一つ減ってる」

「……」

「減ってるよね?」

「…………」

 せめてこれだけでも。そう思ったがそれも叶わなかったようだ。

 身をよじり紗良の手を振り払って、オレは窓へ走る。

「兄ぃ! 待てこらぁーっ!」

 慣れた手つきで鍵を開けてベランダへ出ると、飛び降りた。

 二階から着地すると脚がびりびり痺れたがもはやこれも日常。よくあることなので脚はすぐに蘇った。

「よし!」

 ベランダから顔を突き出して紗良の声が何かを訴えているが、耳には入らない。

「へへ」

 ズボンのポケットから先ほど盗んだ五〇〇円を出す。

「肉まんでも買いに行くか」

 暗い夜道に光る街灯が、ゴキゲンなようにチカチカと光っていた。

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