小さな恋物語

極月 優輝

第1話もしかしてのその次は

とある冬の日

辺り一面カップルだらけのこの屋外デートスポットでこんなスポットには縁の無い独り身の俺は何の因果かカップルにココアを売っていた。

海沿いの煉瓦でできたおしゃれな倉庫型のショッピング施設、夕方になり海風で冷え込むところでするこのバイトは売れ行きも良く、退屈さを苦手とする俺にはいい案件だ。

隣でレジ打ちをしてた少し髪が薄い愛妻家で有名な上司が休憩の合図をくれた。

「1時間の休憩な」

「有り難うございます、行ってきます」

コンビニ弁当の待つ休憩テントに向かうとそこにはすでに数名のバイト仲間が弁当を広げていた。

「おっ、お疲れ!神崎もこっち来いよ!」

「お疲れ、神崎も半藤先輩問い詰めるの手伝って」

「こら」

「半藤先輩、お疲れ様です。問い詰めるって何を?」

「半藤先輩の初恋話!」

「よし、問い詰めよう」

「こら、乗るな神崎」

弁当を片手にバイト仲間の話に混ざると思わぬ話で盛り上がっていた。なんせバイトで一番人気の半藤先輩の初恋話、こんなバイトでカップルに埋もれてる日の話のネタにはもってこいである。

俺も半藤先輩の隣に座り、興味津々に半藤先輩を見る俺たちの満場一致の視線に諦めた先輩は苦笑した。


「悲しいことに告白もできなかったヘタレな俺を象徴するかのような恋だったよ。」


―――


初恋は小5の時、俺は155cm、飼育委員、ドラム好き、図書室にあった畳で上級生と組手もどきをするような所謂普通の小学生男子だった。

そんな小学生男子が好きになったのは一個上の先輩、図書室で図書委員の仕事をこなしながら下級生の面倒をよく見てる人だった。俺はセンパイって呼んでて、よく図書室で委員でもないのに仕事を手伝ってたな、組手もどきをしてセンパイに怒られて。

「下級生が真似して怪我したらどうすんの!」

「ホコリがたつ!組手のための畳じゃない!」

…なんか、図書室にいる大人しげなイメージとは全然違ったな、むしろ外で男子と一緒にサッカーとかしてる感じ、常にジーパンだし髪結んではいたけどそんな長くなかったし。

俺が委員会でウサギ逃がして、図書室にウサギが逃げ込んだ時も真っ先に捕まえんの手伝ってたし。

どこが好きになったか…うーん、笑顔かな、やっぱ。

褒めてくれた時とか機嫌がいいときの笑顔とかだろうなぁ。

「半藤!よくやった!」

「ありがとう」

そんな中、センパイと図書室以外の接点を持てた、音楽室でな。

センパイは音楽の先生から気に入られていてよく休み時間は音楽室でピアノを弾いてた。そのうち下級生がセンパイに弾いてほしい曲をねだるプチ演奏会的なものがよく自然に開かれてた。俺は別室でドラムの練習をしながらその演奏を聴いたり、たまには俺の練習をセンパイが聞きに来てくれたりしていた。

俺はそん時に限ってポカミスおかして笑われてたけど…。

告白?そん時に?

好きだなーとは思ってたけどそれと同時に知ってたからな、センパイに好きな人がいるって。

しかもその好きな人は俺の部活の先輩で幼馴染だったから。

幼馴染のほうに対するセンパイの気持ちがダダ漏れでさ、いやぁ、分かりやすかった。幼馴染もまんざらじゃなかったし。

その時点で俺の心は半分折れてたわけ。

で、卒業式の日、センパイが春休み中に引っ越して私立の中学に進学するって聞いた。

俺の小学校には5年生が卒業生に胸につける花を式前に一人一人渡すのが決まりになっててな。思わず、センパイのところ行ったよ。

「センパイ!」

「あ、半藤」

「あの、卒業おめでとうございます!」

「ありがとう、半藤も元気でね、いい後輩持ったなぁ、私」

少し寂しそうな笑顔のセンパイを見て玉砕覚悟で告ろうとしたその時

「卒業生集合!」

「あ、ごめん、行かなきゃ。花ありがとう!」

タイミングの悪さを恨んだな、あの日は、本当に。

で、その時式後に会う約束でも取り付けりゃよかったんだけど、当時の俺は見送ることしかできなくて、そのまま。


―――


「ってのが、俺の初恋。な?ヘタレだろ」

笑いながら話し終えた先輩が片手に持ってたコーヒーをすする。

意外な初恋だった、案外ヘタレですね、先輩可愛かったんですね、など様々な感想が飛び交う中、懐かしそうに笑顔で話を聞いている先輩に俺は声をかけた。

「今ではいい思い出って感じですね」

「まぁ、10年も前の話だからな。いい思い出だよ」

すると俺の反対隣りに座っていた女子が話に入ってきた。

「じゃあ先輩、もしその初恋の人に10年ぶりに会ったらどうしますか?」

「ん?そうだな…」

少し眉をひそめて考えるそぶりを見せた後先輩はコーヒーを軽く持ち上げた

「もしかして○○さんですか?ってきいて本人だったら、軽くコーヒー飲みにでも誘うかな」

スマートでちょっとおちゃらけた回答にそこにいたみんなが先輩は気障だなと笑い飛ばした。

そんな話で盛り上がっていたら休憩時間もあと20分だ。先に休憩に入っていたみんなが一斉にテントから消えていく。俺もそれに合わせてタバコを吸いに行こうとテントを出た。

「よし、頑張りますか」

「神崎もう少し時間あるだろ」

「俺はタバコ」

テントとの裏で吸っていると中から先輩の声ともう一人の声が聞こえた

「盛り上がってたみたいね」

「ちょっ、聞いてたんですか」

慌ててるのが半藤先輩、女の人は…久坂さんだ、先輩と同じブースの。

「ずいぶん気障な回答だったね」

「そこもですか…」

先輩と久坂さんの会話は先輩の普段の年上らしさは皆無でむしろ年下っぽかった。

「もしかして…か」

「…なんですか」

「ホントのこと教えてあげないの?もしかしては相手が言って、自分は驚いて声も出なかったって」

面白がるような声の久坂さんの発言に俺は驚いた。

「いやですよ、そんなヘタレなとこわざわざ言いません。」

「いいじゃん。で?」

「…はい?」

「その後のお誘いはいつになるのかな?半藤」


…なるほど、確かに大人しくはない人だ


その言葉で確信を持った俺は少し早いがタバコをしまい仕事に戻ることにした。

これ以上聞くと後でばれた時の先輩が恐そうだ。それにここまで聞いてあとでみんなで問い詰めよう、その方がずっとおもしろい。

何より…



「これ以上はごちそうさまです」


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