500文字小説シリーズ

朱里澤セツナ

1.待ち人

駅のホームで、ただひたすらに彼を待つ彼女がいた。

彼女はホームのベンチに座り、ただただ彼の来る時を待つ。

何本もの電車が目の前で通過していった。

電車の扉が開くたび、彼女はふとホームとコンコースをつなぐ階段に目を向ける。

彼が走って降りてこないのを確認すると、また扉の閉まり、過ぎゆく電車を見送る。

その繰り返し。

だんだんとこの一連の動作が作業と化す。いずれ、電車はすぐに過ぎゆくようになった。


1年程経ったある日、いつものように階段へと顔を向ける。

そこには微笑みながら階段を降りてくる、彼の姿があった。

微笑む彼に彼女も微笑み返した。

しかし、1年という壁を隔てた2人が共に歩める道などなかった。

彼の後ろには、彼とともに笑い合える仲間がいた。

そして、彼女に代わるだろう者もいた。


彼はもうじきに来る電車を待つ。彼の仲間とともに。

その背中には光り輝く、明日への希望で出来たかのような翼があった。

散った何本かの羽は僅かに地を照らし、消え行く。

それは彼女が彼に求めていた姿であった。

誰もが望む姿であった。

そんな彼を、彼女はただ見送った。


彼女は未だ待っている。

彼でもない、誰でもない、何かを。

希望もない、涙に濡れたホームで。

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500文字小説シリーズ 朱里澤セツナ @Akarizawa-Setuna

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