トレランス
TARO
黄泉比良坂
イイヤアアアァァッァッァッ
果てしない絶望が彼女に慟哭の叫び声を上げさせた。
もはや取り返しのきかない
あれほど愛していた夫を憎まなければならぬ。
これから誅殺しなければならないのだ。
殺戮によってのみこの恥辱は贖われるのだ。
あの男に死を!
ゆけ! 黄泉の醜女達よ
死によって報復を!
ゆけ! 黄泉の醜女達よ
捕まえて八つ裂きにするのだ!
私は妻を産後の病で亡くしてから、毎日哭き枯らしていた。
私は死の国の入り口で妻に向かって語りかけた。
「志を同じくして結ばれたわが美しい妻よ。何で逝ってしまったんだ。どうか帰ってきておくれ」
妻の応える声が聞こえた。それは依然と変わらぬ美しい声だった。
「ああ、何で早く来てくれなかったの。私はもはや黄泉の食事をする者となってしまった。
ああ、でも、まだ間に合うかもしれない。わが愛しい人よ。これから死の神を説得して見せるから。それまで目を閉じていて…」
I miss you
I mess you
Called Yomotsu-Hirasaka
あの人は髪飾りと櫛を醜女たちに投げつけた。すると、髪飾りはブドウの蔓となり、櫛は筍となり、醜女達を足止めした。醜女たちが気を取られているうちに、あの人は遠くへ逃げた。
悔しい! あの髪飾りと櫛は私の想いを込めた贈り物だった。
我が身体に巣食う雷神達よ! 醜女に代わってあの男を追うのだ!
黒こげにしてしまえ!
永いこと目を閉じてしばらく待ってみたが何も起きない。私は不安になって、火を灯して、死の国へと侵入した。
しばらく歩くと、見慣れた妻の後姿を目にした。懐かしさと愛ししさで胸がいっぱいになった私は思わず妻の前に躍り出てしまった。
すでに腐りきった顔には蛆が無数にたかり、口からは泡を吹いていた。
身体のいたるところに邪悪な神々が巣食っており、雷の光が体を覆っていた。
妻は私に気づくと、聞いたこともない恐ろしい叫び声をあげた。
私は一目散に逃げ出した。もはやあれは妻ではない。黄泉の国の化け物なのだ。
I pray you
I play you
Called Yomotsu-Hirasaka
Closed your eyes
桃の実を投げつけられて、雷神たちは退散して私の体に戻ってきた。今度は私が行かねばならない。
きっと。
きっと、あの人は分かってくれるはず、じかに私が行けば、どんなに変わり果てた姿であろうとも、昔のように愛してくれるはず。
いこう! あの人の元へ。
追手が迫るたびに私は携えてきた妻の贈り物を投げつけてやった。効果はてきめんだった。私は逃げおおせると思っていた。しかし、急な坂に至って、私は疲弊してしまい、妻の身体に巣食っていた邪神共があっという間に追いついて来た。絶体絶命。私は懐を探り、手につかんだものを投げつけた。それによって邪神たちは逃げ帰っていった。私が投げたのは桃の実だった。それは妻のために死の国へ至る途中でもいだものだった。生者の食べ物は死者は受け付けないらしい。
私は後ろを振り返った。すると、あの化物女がものすごい形相で追いかけてきたのを見た。私は力を振り絞って坂を上り切り、死者の国を抜けると、急いで大岩でその入り口を塞いだ。まさに塞がれようとする寸前、追いついた女の手が隙間から飛び出した。私は構わず大岩を動かしたので、腐乱した手はちぎれて落ちた。
岩の向こうで化け物の悲鳴を聞いた。化け物は私に呪いの言葉をかけた。
「ああ、私の愛した人よ、おのれ! お前の国の民を私は殺す。日に千頭、縊り殺してやる!」
「ああ、私の愛しい妻よ、ならば、私は産み増やす。日に千五百頭が生まれるよう、国を富ませるのみだ」
I mess you
I play you
Called Yomotsu-Hirasaka
Called Yomotsu-Hirasaka
Called Yomotsu-Hirasaka
Open your eyes.......
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