クレセント教会
水石さざら
クレセント 教会
月夜。廃墟となった教会。半分くずれた壇の上。
隣に座るのはひとりの男。
服も顔も汚れ、その表情は疲れ切っていたけれど、見るからに端正できれいな顔立ちをしていた。
ぼろぼろになった私とあなた。
光にすがりつく気力さえ、もうない。
ぼうっとした頭で、何度か言葉を交わした。
朝になった。気がついて、私は驚いた。
生きられた。
あの悲劇の日々を、悪夢の夜を、越えて。
少しだけ希望が戻ってきた。
ふたりして教会を出た。村を出た。森を抜け、川を渡り、小山を越え、街にたどりついた。静かで穏やかな街だった。
私は街の人に保護された。
けれどあなたは追い出された。
あなたはファルファンの人だったのよね。見ればすぐにわかってしまった。
私は、小さな丘の上に家を建て、たったひとりで暮らした。
暮らしはじめてから一年もたたないうちに、かわいい赤ちゃんが産まれた。
とても幸せだった。でも寂しかった。
胸に、ぽっかりと穴があいてしまっているようだった。
それから、私はひとりで子供を育てた。食物は自分で作り、動物は罠を仕掛けて捕った。
もう、街の人とはまったく関わらなかった。
それからは、子供が育って遠くの街へ出ていくのを見送った。
子供は、たまに手紙などを送ってよこしたけれど、そのうちそれも途絶えてしまった。
私は、ひっそりと丘の家で暮らしつづけた。
どれだけ歳をとっても、何も変わらなかった。
ただ、ぽっかりとした空白が、そこにはあった。
月夜。廃墟となった教会。半分くずれた壇の上。
あなたは十六歳だった。私はつい最近十五になったばかりだった。
クレセント教会 水石さざら @Mizuishi-Suiseki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます