第7話 東救光教

「見学に来ました。よろしくお願いします!」「よろしくお願いします!」

 元気な二人の声に沙耶葉の顔が緩んだ。待ちに待った受験志願者だった。

「ああーっ、良かった! 様子を見に下に降りてきて本当に良かった。大切な受験生があやうく追い返されてしまうところだったわ」

 沙耶葉は辺りを見回した後、強い眼差しを警官に向けた。

「ここはもう大丈夫ね。ちょっと、そこの困ったお巡りさん!」

 警官達はたじろいだ。美しい長い髪の女性が睨みつけている。

「は、はい。東北州警察の高橋と申します」

 先程、トモ達と話していた警官が答えた。

「あなた方は、警備員さんと一緒に、ここの対応、お願いしますね。もし、また見学志願者が来たら、くれぐれも、さっきみたいに追い返したりしないでください。分かりましたか?」

 相手は親子ほども歳が違う警官だ。一応は丁寧な言葉遣いだが、沙耶葉は、まるで彼らを子供のように扱った。警官は素直に従うしかなかった。

「もう来ない気もするけどね」と言って、沙耶葉は、少年達の方に顔を向けにっこり笑った。

「ふふふ、お待たせしちゃってごめんなさいね。名称は?」

「み、水無渉です!」

 その瞳にすっかり囚われてしまった渉が上ずった声で答えた。

「元気良くてよろしい。名字の横浜じゃなくて、沙耶葉って呼んでね。それから君は?」

 沙耶葉はもう一人の元気な少年に視線を移した。

「七王トモです」

「ななおう? ん?」その名はどこかで聞いたような気がしたが、思い出せなかった。

「どうかしましたか?」

「……あ、うん、なんでもないわ。それじゃさっそく、研究所に行きましょうか」

「ハイ!」声が重なった。

「フフフ……二人は親友かしら?」


   ◆


「まずはこの白装束の大集団について、ご説願えませんか。一体何のつもりです?」

 寒河江の問いかけに、老人は静かに答えた。

「これは、儂が指示したものじゃない。皆、自主的に集まって来たのだ」

 ――白々しい。畠山は、言葉には出さずとも、そういう気持ちを前面に出す顔をした。

 寒河江の方は、表情一つ変えず、さらに話を続ける。

「いずれにしても、こんなことになったのは、代表者、即ちあなたの管理責任でしょう。即刻立ち去るよう、信者全員に指示してください。話はそれからです」

「確かに少々集まり過ぎたようじゃな。だが、汝らが突然全国放送であんな言葉を使うから、こういうことになるんじゃ。国の言葉を守るのは、儂じゃなく、信者の総意なのじゃ」

 総意? 宗教というものがそんな民主主義的でいいのか? 畠山は老人の言葉に疑問を感じた。寒河江は話を続けた。

「十早のニュースの件ですね。確かに刺激が強かったかもしれません。その件は謝罪します。あのニュースは、全世界での同時発表だったのですが、その際、日本のマスメディアは言葉に対する配慮が足らなかったようです。我々がチェックしている訳ではないので……」

「ふん、確か、国際言語科学研究所とかの本拠地は日本だと聞いたぞ。それなのに、汝らは日本での報道内容をチェックする立場にないと言うのじゃな。さすれば、一体、汝達の研究所はどういう機関の下に属しているのかのう。ピラミッドの上層に国際的な何かが存在するということかの? それは異星人とやらに対抗する軍事的組織かな?」

「それは……今は申し上げることができません」

 寒河江は言葉を濁しながら、実に不誠実な回答だ、さっきの抗議団体が聞いたらどう思うだろうか――などと考えていた。それと共に、この少々過激な白装束集団を束ねる代表者は、単に抗議に来たのではなく、何か我々と取引でもしたい雰囲気だと寒河江は感じていた。

 ――そうなると尚更油断ができない。

「まあ、しかし、我々はそんなことには興味がないんじゃ」

 寒河江はその言葉に少し驚いた。何やらあっけない。

「我々が問題に思うのは、なんにつけても言葉のことじゃ。法務救士!」

 導師が言葉を発すると、側近が小型の立体プロジェクターを起動し、空間に文字を映し出した。それは、研究所への要求事項だった。側近は通る声でまず二つの文を読み上げた。

「――二度とあの言葉を公に発しないこと!」

「――それに関連する言葉についても今後も公に発しないこと!」

 あの言葉とはもちろん『月』のことである。寒河江はそこまでの要求は予想していた。しかし、映し出された三つ目の要求文にぎょっとした。今までのポーカーフェイスがその時初めて崩れた。老人は淡々と話を続ける。

「とにかく、今回の報道をきっかけに、次々と日本の言葉が壊されていくのは、教団としては許せないのじゃ。だから、この先も変えていかないことをここで誓約して欲しい」

「……マ、マスメディアが使う言葉の問題は、基本的には、私達の権限でどうこうなるものではないですが、我々の研究所、或いは、その上層の組織が外部に使う言葉に関しては、配慮しましょう。メディア局各社にも抗議の意志を伝えておきます」

 寒河江は、要求文に気をとられ、言葉を返すのが少し遅れた。

「要するに、言葉は今までりってことです」

 畠山が補足した。しかし、その言葉に、信者達が低いうめき声をあげた。実に不快な合唱だった。『通』は、彼らが避けている言葉なのだ。文字の中に月の形がある。

 気がついた畠山が「あっ」と声をあげた。

「いやはや、どうも鈍くってな。勘弁してくれ」

「――わざと言わせたの――かな?」老人は片目を細め渋い声を捻りだした。

「違います。この男は思考回路が野獣なもので、時々発言が迂闊なんです。許してください。しかし、今、畠山が使った言葉についてはどうでしょうか? これらは世の中で広く使われています。そこまで制約を受けるのは少々困るのですが……」

「それは今までのやり方で問題ない。もちろん、そちらにいらっしゃる別教の方々――」

 そこで、老人はある方向をちょっと見た。視線の先には、白いベレー帽を被る西救光教の信者が五人立っていた。彼らは三角形の白い生地を寄せ集めた舞台衣装のような宗教装束を纏っていた。三角形をベースにした緑の文様に加え、黒やグレーの色もあり、白装束というほどでもない。中心には代表の姿もある。宗教法人の代表にしてはまだ五十代と若い。

「おお、代表の轟さんもいらっしゃいますな。あの方々とは違い、我々にとっては、それらも忌まわしい言葉じゃから、できるだけ使って欲しくはないがな」

「できる範囲で気をつけることにしましょう。それより、もう一つの条件なんですが……」

 寒河江は三番目に表示された要求がとにかく気になっていた。

「ああ、うちの信者の受験者からも最低一名は合格者を出せという条件のことかな?」

「はい。しかし、これには問題が……」

「おっと、宗教差別でもしようと言うのかね」

「いえ。選考の際に、信教によって差別する考えは一切ないですが、異星言語を学ぶにあたり、所内では日本語の言葉の制約もしたくはないんです。あれも含めて……」

「ほお。じゃ、あの忌まわしい言葉さえも、授業に必要だと言うのかな」

「はい。ですから、もし信者の方が入られるなら、研究所内では、それらの言葉は聞くどころか、使って貰うことにもなります。それでもよろしいのでしょうか」

 導師はしばらくしてから、

「――仕方ないのお。認めよう」

と返答した。

 信者達は神妙な顔をしてそのやりとりを見つめている。

「認めるって一体何様だよ!」

 畠山が小さな声で呟いた。

 寒河江には、導師は、このやりとりを聞かせるために、信者を集めたのではないかと思えてきた。導師の目的は一体何だ?

「それから……」

「なんじゃ、まだ、何か注文がござるかな」

 その言葉には、野獣が返した。

「それは俺が言うよ。要するにな、ウチの研究所は優秀な研究生のみを必要としているんだよ。優秀ならむしろ大歓迎だ。何人でも採しよう」

 そこでまた信者の不快な合唱だ。

「あちゃー。野獣の俺には君達のために言葉を選ぶのは無理だ。今日は我慢しろ。とにかく、俺個人の意見としては、むしろ、救光教の信者が入ってくれれば、うちの研究活動を認めたことがはっきりするし、何かとやりやすい。大歓迎だ。面接の点数は少し甘めにしてやるぞ」

 畠山のその言葉に、寒河江は苦笑いした。

「所長の立場としては、試験を甘くすると言う訳にはいかないが、合格者がゼロにならないよう配慮はしよう」

 今度は畠山が笑った。所長自ら、試験を甘くしようと言ってるようなもんだ。

「とびっきりの優秀な人間に試験を受けさせるから、その心配は不要じゃ」

 そう言って老人も笑った。そして、寒河江は、今度は西の集団の方を向いて叫んだ。

「もちろん、そちらの西救光教の信者の方々についても、同様です!」

「国民の一%ぐらいしかいない東さんと違って、西さんの信者は約十五%。あちらさんは大丈夫なんじゃないのかねー」

 畠山が苦笑いしながらそう言ってる時に、寒河江の携帯が鳴った。ちらり見ると、緊急のサインが出ている。

「緊急なのでちょっと失礼。――状況はどうだ。え、何だと? ああ、ああ――」

 寒河江の表情が険しくなった。そして、顔をあげ、厳しい視線を光法導師に向けた。


   ◆


 白装束の集団に取り囲まれたまま、三人は坂を上っていく。楽しく会話する雰囲気とはとても言えない状況だったが、沙耶葉はお構いなしに、笑顔で少年達と話を続けた。

「へえ、二人は今日会ったばかりなんだ。何だか、昔からの親友みたいに見えるわよ」

「そうですか。確かに何だか僕も、わたる君とは今日会ったばかりという気がしません」

 トモが答えた。渉はちょっと照れくさそうだ。

「ところで、二人はどうして、異星言語科学研究所を受験する気になったの?」

「それは……」二人の少年の声がまたもや重なったので、沙耶葉は笑った。

「ふふふ、じゃ、まずはワタル君から……」

「はい、沙耶葉先生!」

 その言葉に沙耶葉の表情が変わった。

「せ、先生! ……はぁ、その響きいいわねえ。最高ォ! ねえ、トモ君も呼んで呼んで!」

「はあ、はい。沙耶葉先生……」

「す……すんごく気持ちイイ! この研究所に入って良かったわ。本当に良かった」

 沙耶葉は舞い上がっていたが、トモの呆れぎみの顔が視界に入り、ようやく我に返った。

「あ、あ……ごめんごめん。ワタル君、続けて」

 見かけの印象と違って何だか子供っぽいな――と渉も感じながら、話を続けた。

「はい、実は、僕は異星人とか言語とかにはあまり興味はなくて……」

「そうなの?」

 少し低くなった沙耶葉の声に、渉はまずいことを言ったと反省した。

「あ、いや、えっと、今言ったことは間違いで、異星人言語に、もちろん興味を持ってます」

 声を上ずらせながら釈明する渉に、沙耶葉は少し厳しい口調で言った。

「私の反応なんかいちいち気にしなくていいの! 正直に自分の気持ちを話しなさい」

 渉は背筋をピンと伸ばした。

「は、はい! 実は、僕は、異星言語よりヴァーチに興味を持ってるんです。この研究所では最新鋭のヴァーチを使うという話をニュースで聞いたので、実物が見たくて来ました」

「君の家はヴァーチを置いてるの?」

「いえ。でも、学校の部活動で時々使っているんです」

「ああそういえば、最近幾つかの学校でそういうの始めたって聞いたなあ。じゃ、トモ君はどう?」

「僕はほとんど使ったことがないです」

「そうよね。最近、世の中に出てきたばっかりだしね。で、わたる君、ヴァーチは面白い?」

「はい。特に、現実を似せてるんだけど、現実ではないところとか……」

「なるほどそういう点も面白いね。でも、一般に出てるのは所詮簡易版なのよね。基本的には、視覚と触覚の疑似体験のみの古臭い技術しか使ってないの。本物はもっと凄いよ」

「ほんとですか? 実は僕はその本物のヴァーチの開発に参加したいんです!」

 渉の目が輝いている。

「ふーん、でも、はっきり言っておくけど、この研究所は言語の研究機関だから、ここではそれは無理だろうね」沙耶葉は何でも率直に言うタイプだ。

「そうですか……」輝いていた瞳にたちまち陰が差した。それは沙耶葉にも伝わった。

「まあ、あんまりしょげないで……。そうだ、いいものを見せてあげるわ」

 沙耶葉は、ショルダーバックから眼鏡のようなものを出した。

「掛けてみて」

 渉とトモに渡されたものは、鼻当てもあるから眼鏡という感じなのだが、レンズはなかった。

「なんですか?」とトモが訊くと、沙耶葉はもう一個同じものを取り出し、フレームを広げ、掛けてみせた。装着すると目の部分にレンズのようなものが現れた。

 早速トモと渉も掛けてみた。同じようにレンズが現れたが、二人とも怪訝な顔で辺りをきょろきょろ見回している。その様子に沙耶葉は笑みを浮かべ、眼鏡の感想を訊ねた。

 渉は戸惑いぎみに「何も変化ないですが」と答えた。

 トモも「うん、僕の方も何も変らないよ」と言った。

「そうよね。じゃ、今から、周りの様子をよーく見ててよ」

 そう言った後、沙耶葉は奇妙な呪文のようなものをささやいた。それには歌のようにはっきりした音階があり、それぞれの語の発声の長さは、一定ではなく複雑だ。しかし、歌のような芸術性は感じない。喩えて言うなら、それは、乱数で自動作曲をするソフトウェアが発生させる音楽性のない音の羅列のようなものだった。

 二人は沙耶葉が発した奇妙な言葉にも驚いたが、周囲ではもっと驚くことが起きていた。

「ああっ!」「うわっ!」

 二人の少年は思わず大きな声をあげ立ちどまった。突然、白装束の集団全員が、持っている杖を上にさし上げたのである。そしてそれを歩いたまま、地面にコツコツと叩きつけた。杖を地面に叩きつける音が周囲に響いた。

 もちろん、彼らのすぐ隣の白装束集団も、杖で地面に叩いている。そして、立ち止まった少年二人を避けながら、顔色一つ変えずに、どんどん坂を登っていく。

 悪戯っ娘のような笑みを浮かべ、沙耶葉もその場に立ち止まった。

 暫くすると、突然、信者全員が杖を投げ捨て、白い地下足袋を歩ませながら、阿波踊りを踊り始めた。どこからともなく笛や太鼓、そして三味線の演奏も聞こえてくる。

「どうなってるんだ?」

 トモは辺りを見回しながらただ驚くばかりだったが、渉の方はそのからくりに気づいた。

「そうか!」

 眼鏡を外すと、渉の耳から音は消え、視界には元通りの静かに歩く白装束集団の姿が戻った。

 それを見たトモも、同じように眼鏡を外すと、彼の視界も元に戻った。再び眼鏡を掛けると、眼鏡の中の白装束集団は踊っている。それは偽の視界だったのだ。

「どう、面白い? ヴァーチの技術を応用した眼鏡なの。ま、所詮うわっつらの技術を使っただけのものだけどね。元の映像から、ちょっと変えるのは、結構簡単なのよ」

 再び眼鏡を掛けた渉は、こんな小さい眼鏡が作り出した疑似映像とはとても思えない視界と音響に驚きながら、沙耶葉に訊ねた。

「こんな凄いもの、一体誰が作ったんですか?」

「誰だと思う? へへーん、実はこのあたしなんでーす!」

 自分を指差し、胸を張る姿はまるで子供のようだ。

「実は私も、学生時代に偶然出会ったヴァーチにハマっちゃってね。ヴァーチの研究とかやれる所を探したんだよねー。でも全然なくて、結局、ここに辿り着いた訳なの。でも、異星言語だって、ちゃんとマスターしてる……」

「し、師匠!」

 沙耶葉の言葉を遮って、渉は声をあげた。体が小刻みに震えている。

「こ、これから、沙耶葉先生のこと、師匠と呼んでいいですか?」その表情は真剣そのものだ。

「師匠……うーん、その呼び方はちょっとイマイチね。やっぱ、沙耶葉先生の方がいいわ。大体、師匠と言われるような人間の深みは、この私にはないし。ごめんなさいね」

 沙耶葉はあっさり答えた。その喋り方は、普段モテまくりの女性が、慣れた様子で、告白相手を笑顔で冷たく振る感じと似ていた。

「す、すみません……」

 謝る渉の表情は悲しげだったが、大丈夫だ。お前は別に振られたわけじゃない。

「あの……」眼鏡で周りを興味深そうに見ていたトモが話に割り込んできた。

「ちょっと気になることが……あそこの人達……なんですけど、ちょっと変なんです」

 トモは、坂道の上のずっと遠くの一点を指差した。

「え? 何?」同じ方を沙耶葉も見た。渉も見た。

 沙耶葉が「あ!」と大きな声をあげた。その周辺も白装束の集団がすっかり埋めつくしていたが、よく見ると、その中の数名は踊っていない。杖を持ち、粛々と歩いている。三人は眼鏡を外してみた。その部分だけは何も変わらない。そこの数名にだけは眼鏡の効果が出ないのだ。

「なんでだろ……あそこの数人は動いてない。変だなぁ、白装束姿の人間はすべて置き換えるようにプログラムしたのになぁ」

 再び眼鏡を掛けながら、訝しげな顔をしている沙耶葉に渉が訊ねた。

「どうしてこういうことが起きるんですか?」

「うーん、そうねぇ。プログラムの不良かもしれないけど……やっぱ、センサーの問題かなぁ。あ、もしかして、偽装かもしれないなー」

「偽装?」

 少年二人の声が重なった。その声を聞いて、沙耶葉は顔色を変えた。

「あ、まずった。今の話はなかったことにして……えっと、この件、連絡しなきゃいけないから、ちょっ、ちょっと待ってね」

 そう言うと沙耶葉は携帯を取り出し、話を始めた。

「あ、大野木さん? 不審者発見しました。うん四名。ヴァーチグラスで変化しないのよ。うんうん、そうだと思う。今、座標送るわね。今、そばにお客さんが居るんで……大丈夫、受験志願者よ。そんなわけで後はよろしくお願いします」

 早々と通話を終えた瞬間、トモが訊いた。

「あのー、あの人達って異星人なんですか」

 沙耶葉の顔が一瞬凍りついた。

「……なかなか凄いことを訊くねぇ」

「済みません……」

「えっと、うーん。どうしようかなぁ。そうね、表向きは違うことにしといてね。間違っても、あの人達に話しかけたりしちゃダメ!」

 沙耶葉は、苦笑いしながら答えた。嘘を吐くのは苦手だった。

「ごめんなさい……」トモはこの件は訊いてはいけないことだと察した。

「――様子を見ているだけだと思う。あの人達については、いつか話せる時が必ず来るから」

 沙耶葉はトモに目を合わせずにそう言うと、トモは小さく「はい」と返事をした。

 その時、突然、トモの携帯が鳴った。携帯を取り出し画面を見ると、掛けてきたのはトモのクラスメートだった。

 沙耶葉に断ってから、トモが携帯に出ると、泣き顔の少女が画面に現れた。通常禁止されている教室の中からの通話のようだ。今は授業中のはずだが、何やら騒がしい。

「綾子ちゃんが、綾子ちゃんが、さらわれちゃったよお!」

 悲痛な叫びが受話器から響いた。

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