英雄伝説(ひでおサーガ)〜ギャルゲーの主人公が魔王討伐の旅に出る〜

士ケンジ

第1話 ベタな展開のはずが…

ベタな展開のはずが…。


「英雄!英雄ってば‼︎ 」


幼馴染の僕を起こす声が聞こえる。


「早く起きないとあたしまで遅刻しちゃうじゃない‼︎ 」


う〜ん、うるさいなぁ。

そんなにでかい声出さなくても聞こえてるよ。


隣の家に住む彼女、流川真央とは幼稚園からの付き合いだ。同じ近所の高校に進学してからも寝坊がひどい僕を毎朝起こしに来る。


「もぉ〜、おばさんが作ってくれた朝ごはんが冷めちゃうってば! 」


真央は僕の体を布団越しに激しく叩いてきた。

さて、どうするか・・・。


▶︎ 1.素直に起きる

2.起きて抱きつく

3.二度寝する










という冒頭で、このゲーム『スクールクラブメモリー☆』は始まるはずなんだけど。

僕が起こされる気配は一向にない。


ゲーム開始早々にバグか?

まずい、まずくないかこれ‼︎

プレイヤーから見たら、ボタンを押しても画面真っ暗なままだよ‼︎

ディスプレイの向こう側で「何このクソゲーwww」ってなっちゃってるよ‼︎


待ってください、プレイヤーの皆さん‼︎

しばらく経ったら始まると思いますので、まだ製作会社に電話したり、ネットに書き込んだりしないでください‼︎

お願いですからクソゲー認定しないでください‼︎


あ、ちなみに冒頭の選択肢でCG回収できるのは3ですよ。

掛け布団にくるまって二度寝しようとすると、真央が無理矢理ふとんを引っぺがして起こそうとします。

僕はその勢いで起き上がって、真央の胸に顔を突っ込むというラッキースケベなシーンが出てくるので、もうちょっとだけ待ってもらえませんか?!


って、こんなこと言っても会話ウィンドウが出ないんじゃプレイヤーには伝わらないか。


どうしよう、もうどうにもならないのか?

真央が起こしてくれなきゃ、僕は目を覚ますことができないし、・・・ってあれ?

無意識に表情を作ったらしく、顔の筋肉が動いた気がした。


もしかして、目を開けられるかも。

僕はもう一度目の辺りにぎゅっと力を入れてみた。やはり瞼が動く、眉間に皺が寄った感覚も伝わってくる。


目を開けられるのがいいけど、開けちゃっていいのかな?真央が来る前に起きっちゃったらCG回収できなくなるだろうし。


でも結構長い時間この状態が続いてるはずだ。さすがにここまで何も展開がないとなると、どうにかしないとまずいよな。

とりあえず様子を伺う程度にうっすら目を開けてみよう。


僕は恐る恐る目を開けてみた。

仰向けに寝ていたので、目の前には見慣れた白い天井と、アイドルの滝島クリスちゃんのポスターが見えるはずが。


「何だよこれ‼︎ 」


僕は事情も忘れて声を上げて飛び起きた。


天井は見えず、ベッドにワイン色のカーテンみたいなものがかかっている。

何だっけ、これ? 昔親が観ていたテレビでこんなの映ってた気がする。ヨーロッパのお城の部屋にあった、確か天蓋付きベッドとかいうやつ。

いや、そんなこと気にしている場合じゃない‼︎

ここどこだよ‼︎

辺りを見回してみると、明らかに自分の部屋でないことは確かだった。

金の額縁に入った油絵、金の細工が施された暖炉、金のたてがみのライオンの剥製。

壁紙の模様まで金、見渡す限り金、金、金。


落ち着け、僕。

もう一度自分の設定を思い出してみよう。


名前は新藤英雄(しんどうひでお)、男性向け恋愛シュミレーションゲーム『スクールクラブメモリー☆』の主人公で、夢坂高校に通う17歳だ。


ゲームのあらすじは、男子校と女子校が合併した夢坂高校で初の合同文化祭を開催することになった。ただ合併とはいっても校舎は完全に分かれていて、同じように文化祭を主導するクラブも男子部、女子部で分かれいる。しかもお互いすこぶる仲が悪い。

そこで主人公である僕が仲を取り持って文化祭を成功へと導き、仲良くなった女子と恋愛関係になれるというものだ。


うん、間違いない。

設定は頭にすぐに浮かんできた。

僕は男性向け恋シュミ、いわゆるギャルゲーの主人公なんだ。

何でこんなことになったのかはわからないけど、バグで済ませるには世界観がまるで違い過ぎる。


僕は天蓋付きベッドから起き上がる。ベッドの横には大きな鏡が置いてあり、自分の姿が映っていた。短い黒髪、黒い瞳、イケメンでもないブサイクでもない平凡な顔立ち。

プレイヤーからすれば、よく見るタイプのギャルゲーの主人公顔だと思う。


よかった、顔はそのままだ。

部屋が全然違うのに自分の容姿が変わっていないのも妙な感じだけど、今はまあいい。


ただ着ていたはずのパジャマは、白い生地に金の刺繍が入ったワンピースみたいなものになっていた。

私服も含めてメイドインし○むらしか着たことがない僕にとっては、随分とハードルが高い格好だ。

部屋も金で、自分も金とかどんだけ成金キャラなんだよ。


いや……、成金というには部屋の家具といい、現代からかけ離れたデザインだ。

全体的にヨーロッパのお城のようなイメージ。

そう、貴族の部屋って感じだ。


そんなところにどうして僕が寝ているんだろ?タイムスリップ展開も、攻略キャラにお嬢様キャラはいるけど、こんなレベルの大金持ちじゃなかったはずだ。


頭には疑問がつきない。疑問について考えたところで解決しないのに、無駄に時間が過ぎようとしている。


すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「王子、お目覚めですか」

重厚なデザインの金のドアの向こうから、女性の声が聞こえた。

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