第2話
十四歳ちょうどの春の日(中学二年生)
今日は僕が生まれた日らしい。誕生日なのだから「らしい」というのもおかしいが、三百六十五日で一周する暦というものが、どうも納得できない僕は誕生日にも、あまり意味を見出せない。
小学生のころは母が誕生会と称して料理を奮発したり、父が仕事帰りにケーキを買ってきたりしていたが、中学になった去年からは、いや、中学になったという理由ではないけれど、誕生会というものはなくなった。
小学生の時も、同じクラスにいる子の誕生会なんかには行ったことがなかったし、僕の誕生日に誰かを呼ぶなんてこともなかった。
ひょっとしたら、誰かの誕生会に招待されたことがあったかもしれないが、記憶には残っていない。
でも、他の子は誕生日プレゼントを買い、子どもなりのおしゃれをして誕生会に行っていたようだ。
「行きたかったんだろう? 誕生会に」
ふいにベッドのふちに座るフレムスが言った。
「そんなことないよ」
僕は誕生会のことなんかより、このシクシクと痛む気がする……いや、このシクシクするお腹の痛みを感じなければならなかった。
お腹の痛みで学校を今日も休んだのだから。
「お腹なんて痛くないんだろ? もう休めたんだから痛いふりなんかやめろよ」
フレムスは窓の外を見ながら可笑しそうに言った。
「そんなことないよ! 本当に痛いんだ!」
僕は母に切れてしまう時と同じように怒鳴ってしまった。
「お腹……痛くなくたって、学校なんて行きたくないなら、行かなくたっていいんだぞ」
「そんなことない! 理由なく学校は休んじゃダメだって」
「理由? あははは。その理由ってやつのためにお腹が痛いのか? あははは」
「笑うなよ。笑うなって」
「可笑しいだろ。お腹が痛いのが理由ならわかるけど、理由のためにお腹が痛むなんて。まるで、あべこべじゃないか、あははははは」
フレムスは笑い続ける。本当に可笑しくて笑っているみたいだ。馬鹿にされている気はしない。
「学校を休むためには理由がいるって、あははははは。おい、一句浮かんだぞ」
フレムスは笑うのをやめて真剣な顔になった。
「ガッコウヲ ヤスムタメニハ ワケガイル。どうだ?」
「……なんだよ、それ?」
「俳句」
「ぷっ」僕は思わず吹き出した。「季語もないじゃないか。それじゃあ、俳句にもなってないよ」
「でも、五、七、五だし、余韻は残しているぞ。でも、季語はない。そしてくだらない内容だ」
「ガッコウヲ ヤスムタメニハ ワケガイル……本当にくだらないや、ハハハ」
くだらなさすぎて、なんだか可笑しくなってきた。
「くだらないだろう。笑うしかないだろう。アハハハ」フレムスも可笑しそうに笑いだす。
フレムスと一緒に笑っていると、お腹の痛みも消えている。いや、お腹なんて最初から痛くないし、お腹が痛くなくたって学校なんか休んでやる。
フレムスはいつも僕を笑わせて、嫌な世界から僕を救い出してくれる。
そう、フレムスといると学校で感じていた嫌な気分やザワザワした感情が薄れていくんだ。
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