永久なる願いを胸に……
…………どこからともなく、『Ave-Maria』が聞こえてくる。甘い、ハイトーンソプラノ。まるで風が伴奏しているかのように響き渡る。街の人々は歌っているのが誰だか分かったようで、にこにこしていた。……けれど歌が終わった瞬間、歌など聞こえていなかったかのように日常に戻っていく。
~・~・~・~・
……人里離れた場所に、"架音"はいた。
「……また、逃げられてしまいましたわ。一言もお話して下さらないのでは、進展がなくてよ?でも、あたくしは追い掛け続けますわ。」
アンジェリカを抱え、ふわりと蜂蜜色の金髪と、ベルベットレッドのゴシックドレスを翻した。
「……人間様は好きになれませんの。一時的な感情で態度をコロコロ変えてしまうんですもの。人形は物ではなくてよ?……………大切にしない人間様の未来なんてありませんわよ?」
口許がおかしそうに笑う。
~・~・~・~・
"架音"は追い掛け続ける。彼女を救うために、自分を解放するために。
携帯機器は留まるところを知らない。次は何回目後になるかわからない。人間は多けれど、限りある存在。彼女たちは少ないけれど、永遠を生きる存在。時が勝つか、"架音"が勝つか……。途方もない闘い。それでも、"架音"は諦めない。
……いつか、『Amazing Grace』が歌えるその時まで。
~・~・~・~
「……人形は人間様と違って一途なんですの。誰かに左右されるなんて、真っ平御免ですわ。おーほほほほほほほほほほ!おーほほほほほほほほほほ!それでは、御免遊ばせ……。」
高笑いだけを残し、消えていく。後にはなにも残らない。彼女を知る者はいない。
~・~・~・~
「……どうだったっけ?」
「私に聞かないでよ。何故だか覚えてないのよ。」
そして、二人ははっとした。
「「おっきなテディベア!!」」
それだけは辛うじて思い出せた。
《死を呼ぶデビルドールと救いのエンジェルドール》
カタカタカタ……
『あたしも助かりました。皆さんのようにあまり覚えていません。けれど、忘れられないことがあります。
……エンジェルドールの彼女は決して、あたしたちの味方ではないということです。
あたしの記憶している特徴は、大きなテディベアです。』
~完~
━━人形のあるところに、架音あり。今日も彼女は、人形のためにひた走る。そのためならば、時空さえも超えて……━━
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