春の襲撃編 17
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「2丁扱うのは久しぶりどすえ?」
訳のわからない、京都の人達に絶対怒られそうな言葉遣いをしている桃希。
ニコニコとしながら集中力を消そうとして来るが、そんなことされたら逆に集中力切れないし、蒼翔はこんな程度で集中力を切らすような鍛え方はしていない。
連続して聞こえてくる銃声。
それと同時に体の向きを変えて走って逃げる蒼翔。
流石にこれ以上弾いてしまうと刀塚玄翔だとバレてしまう。
蒼翔の走る速さより、桃希が撃つ銃弾の速さの方が速い。
だが――
(な、なんですのこれは……距離間隔がわかりまへん!?)
――全て蒼翔に当たることはなかった。
桃希の視界はボヤけ、距離間隔がよくわからなくなっている。その為、形だけ見える蒼翔に向かって適当に撃っている。
飛んでくる銃弾は足元に当たったり通り過ぎたりするが、たまに命中してくる銃弾は『灼屑』で斬っている。銃弾が1つならば問題は無い。
――蒼翔の『想力分子』使いを甘く見るものではない。
傍観側には何が起こっているのかわからなかった。まぁ先程から何が起こっているのかわからないのだが。
あの圧倒的な命中率を誇る桃希がほぼ全て外れている。命中した、と思っても斬られてしまう。
何故だがわからず、声すらでなかった。
(どうしますねん!どうしますねん!1発も当たりまへんがな!?)
(クソッ……確かにこれだと全てよけれるが……こちらも攻撃を当てる手段が)
蒼翔には校内の勝負、というだけでハンデがついてくる。
本当の力、『異能力』を使えばこんな勝負圧勝だ。
しかし、それだと正体がバレてしまうかもしれないし、相手が死んでしまうかもしれない。
だから力を抑えなければならない。
『模擬戦闘室』を駆け回る蒼翔、それを追い掛けるような銃弾を撃つ桃希。
このままだと勝負がつかない。
そう悟った桃希はまた銃声を飛ばすのを止めた。
それを悟った蒼翔はジャンプして一定の距離を保って停止した。
「こうなったらもうええねん。蒼翔ハンを殺すつもりでやらなアカンねん――『
空気中・桃希の周りに引っ付いている『想力分子』が暴れ出す。
何事か、と思った時、その全ての『想力分子』が桃希の手に集まり、凝縮され、その形を作っていく。
綺麗に生産された『それ』は怪物だった。
魔獣のような耳に神のような羽。しかし、先端には銃口のようなものが幾つかついている。
桃希『想力分子』全部『それ』に詰め込まれている。
魔王なのか――
神なのか――
銃なのか――
よくわからない『それ』を構えながら高らかに笑っている。
「どうですの!?桃希の最高傑作の『魔神貫』は!いいですのんいいですのん!これならば距離間隔なんてわからなくても蒼翔ハンに当たりますねん!さて行きますねん!」
脳内の危険ランプが故障した瞬間に蒼翔は走って逃げる。
それと同時に発狂しながら撃ちまくる桃希。
1秒につき放たれる銃弾は約1万。
その約1万のうち、1000個に1個が空中で爆発する。
緋里が危険と判断し、蒼翔達のフィールドを『想力分子』で作った透明な防壁で囲む。これでこちらに被害が及ぶことはないだろう。
(ついにとち狂ったか……!)
蒼翔は全て避けきれなかった。
だが怪我はしていない。
銃弾が自分から蒼翔を避けていく。
まるで蒼翔を何かが守っているかのように。
(ここは賭けに出るしか方法はなさそうだ)
瞬間、蒼翔は自分から銃弾の嵐に突っ込んでいった。
轟音と共に起こる灼熱の炎と黒い煙。
蒼翔は蜂の巣になった、とわかるはずなのに桃希は撃つのを止めない。
もう我を忘れている。
だが――
――『想力分子』達よ――主君を愛したまえ――
「なんですのこれは……」
急に溢れ出てくる涙。
急に掻き消える『魔神貫』。
――何かに包まれているように懐かしい。
――この世で1番、今誰かに愛されていると感じる。
――『想力分子』が――泣いている――
そっと倒れ込む桃希を抱き抱える蒼翔。
そのまま生徒会のところに連れていきその体を渡す。
蒼翔は少し傷ついてはいるものの、ちょっと怪我した、程度だ。
「――勝負あり!勝者刈星蒼翔!」
またしても何が起こったのかわからないまま決着が付いた。
「何故だ――」
咲葵は小さいさな声で呟いた、筈だが。
「それは俺にもわからん」
どうやら杁刀には聞こえていたようだ。杁刀もまた小さな声で言ってくる。
「いや、らいらい先輩が考えているのと、俺が考えているのは違います」
「そうか……つまり『想力分子』が何か?」
杁刀も咲葵の『異能力』のことを知っている。いや、この場にいる全員が知っている。
杁刀と考えていることが違う、ということはそういうことだろう。
つまり、『想力分子』に何かがあった。
「えぇ。腐女子先輩が暴走した時の『想力分子』は苦しく嘆いていた。しかし蒼っちに攻撃を受けた瞬間、腐女子先輩の『想力分子』が何かに反応して、一瞬だけ自我を持ってしまって――」
「――自我?『想力分子』がか?」
「えぇ。あ、知らないんでしたねー。『想力分子』というのはその人の『想い』に反応する分子なのは当然ながら知ってますよねー。では何故反応すると思いますか?」
「――」
「『想力分子』にも自我があるのですよー。そもそも『想力分子』は人を選んでいます。つまり、今自分の周りにある『想力分子』は、それぞれの『想力分子』がこの人になら使われてもいい、と周りにいてくれ、『想い』を共有できます。本当は保有量とか遺伝とかなんにも関係ないんですよ?」
「じゃあなんで《与えられし名》というものが存在するのだ?」
そう考えるのは当然だろう。
遺伝が関係ない、ということならば杁刀家が代々多くの『想力分子』を保有しているという事実が嘘になってしまう。
「――それは自分が説明しましょう」
とここで乱入してきたのは蒼翔だ。いつの間にか大声で話していたらしく、蒼翔には聞こえていたらしい。
「正直、咲葵先輩の説明では不十分、いえ、少し間違っています。確かに『想力分子』は人を選んでいます。ですが、『想力分子』がこの人がいい、だなんて思いませんよ。人間には『核』というものがあります。『想力分子』は人間のその『核』に反応をするのです。そしてこの『核』というのは遺伝によって決まります。つまり人それぞれ、家系それぞれ違う『核』を持っているのです。だから《与えられし名》というのは存在するわけです」
人間には共通して持っている『核』というものがある。
その『核』は家系によって様々だ。
『想力分子』はその『核』を選ぶのであって『人間』を選んでいる訳ではない。
そして、その『核』というのは人間の『想い』に反応する。『核』が反応すると『想力分子』が反応する。だから『想力分子』は『想い』に反応する様に見えるのだ。
そう、つまりは遺伝だ。
努力では報われないこともあるのである。
だが――
――それを覆しては決してならない。覆したのならそれは『罪』だ。
「ほう。よく知っているな」
「……姉に叩き込まれましたので」
これは極1部の人間しか知りえないことである。
ここで蒼翔が知っていると言えば正体がバレてしまう可能性が高くなる。緋里が『リード・セイレン』だとバレ、『リード・セイレン』の弟は世界最強の『刀塚玄翔』だと知っていなければ話していたが。
蒼翔は姉の緋里のせいにする。
緋里は嫌な顔しず、同様しず笑顔で返す。
もうこんなのは慣れっこだ。
「らいらい先輩戻しますけど、自我を持った『想力分子』達は腐女子先輩そのものを愛し、泣きました」
何故わかるのか、とは誰も聞かない。聞いても無駄なことである。
「そして何故か、その『想力分子』の『想い』が腐女子先輩の『想い』に届いてしまい、腐女子先輩は泣いて気絶したんですよー!もうわけがわからん!おい蒼っち!何したんだよー!」
(急に雰囲気変わったな……)
「さぁ自分には。それより、次の対戦しましょうか」
●●●
その頃、蒼翔を探す者達がいた。
1人は二刀流綺瞳。もう1人は松田光喜。
綺瞳はブラブラと校内を歩いている。
(早く会いたいな……)
ただ会いたいがために蒼翔を探し歩いていた。
光喜は街の中をうろうろと部下を引連れて探し回っている。
「兄貴ー!どこですかい!?」
とりあえず迷惑だからやめて欲しいが。
光喜は戦闘スキルを教えて貰いたいがために探し回っていた。
●●●
「次は――」
「――俺が行く」
と杁刀を押し切ってそのまま蒼翔の前まで歩いていき、耳元でフと囁く。
「手加減してねー
――世界最強様?」
「――!?」
そう言い残すとそのまま戻っていった。
「では準備しろ!」
何故だろうか。
何故だろうか。
何故だろうか。
何故咲葵に正体がバレてしまっているのだろうか。
確かに『想力分子』を使って目立った。しかし、決定的な証拠になるようなことをしたつもりは――
と、そこで気づく。
何故先程咲葵と杁刀が喋っている内容が自分に聞こえたのか、と。
つまり、蒼翔はまんまと咲葵にハメられ、自分が刀塚玄翔だとバラしてしまった。
自分の『異能力』を使われて―――
「どうしたの?蒼翔?」
「!……いや、何でもない」
蒼翔はその屈辱感のまま試合に挑み、人生で2度目の敗北を得た――。
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