本とフォント

南北磁石

第1話「繕堂古書店」

西日の差す黴臭い空気の中に、からりと戸を開ける音が飛び込んでくる。

薄らと積もっていた端の埃がふわりと舞い、呼吸器があまり丈夫ではないわたしに咳を起こさせる。

この時間になると近くの大学から帰る学生の中の幾人かが、ふらりとこの店へと立ち寄る。おそらく今店へとやってきた彼も、そのような境遇の人であろう。

しばらく人文科学のあたりの棚を眺めていたが、彼の好みに合うものは無かったのか、レポートに使えそうな資料が無かったのか、一度こちらに礼をして、店から出て行った。

ここでわたしはほっと一息。

客とはいえ、人は苦手だ。

ここは「繕堂古書店」わたしが祖父から貰った数多のものの一つである。

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