カラフルな街にいる愛すべき奇人たち Strangers in the Wonder Town

乃上 よしお ( 野上 芳夫 )

第1話

 この本はストーリーを与えない。


 奇人をみて

 あなたが

 かってに物語を作ればいいのだ。


 あなたは、奇人と一緒に歩いたり

 笑ったりできる。

 奇人が気に入らなかったら殴っても

 いい。


 できれば、あなたには

 奇人と一緒に

 小説というものを

 ぶち壊してほしいのだ。


 人生を計画通りに生きたヤツを

 知っているかい?


 俺は知らない。


 コンパスで地図の距離を測って

 正確にそこに行くなんて

 考えられない。


 人生を振り返れば

 過去に歩いた道は説明できる。

 でも、未来の予言は

 あまり当たらないのだ。


 だから、これがどんな小説になるのか

 聞かないでほしい。

 今は説明など出来ないのだから。


 目的地を決めない旅をしたことのある人

 なら、わかるだろう?


 どんなものを見るのか?

 どんなことがあるのか?


 それがわからないほうが、

 面白いのだ......。


 さあ、奇人1号が街に出た。


 彼は細い黒のパンツを履いて

 茶色のとんがった靴を履いている。

 ジャケットは自慢の赤だ。


 赤は彼の心の中では

 挑戦や自信を意味していた。

 それが歩き方にも出ている。


 靴の先っぽを外側に向けながら

 リズムをとって歩いて行く。

 4 拍子だ。


 ワン、ツー、スリーの3つ目で

 時々、ぴょーんと跳ねたりする。

 そのほうが気持ちがいいからだった。


 ワン、ツー、ぴょーん、着地。

 ワン、ツー、ぴょーん、着地。


 向こうのほうから、自分では

 貴婦人だと思っている女性が

 トイ・プードルを連れて歩いてくる。


 奇人1号が、プードルくんと

 すれ違いざまのタイミングで

 ぴょーんと跳ねると、

 プードルくんは反射神経がいいから、

 同じようにぴょーんと跳ねる。


 これで二人は、いつの間にか仲間に

 なったってことさ。


 プードルのご主人様の貴婦人は、

 ここで考えるわけだ。


 1. 貴婦人らしく、二人を無視してシャナリシャナリと歩き続ける。


 2. この際、プライドを捨てて

 奇人やプードルと同じレベルに

 降りていって、ぴょーんと

 飛び跳ねてみる。


 2.の選択のほうが楽しいのは明らかだ。


 貴婦人もロングスカートをなびかせて

 ぴょーんと跳ねる。

 気取ったお顔が、嬉しそうに崩れる。


「やるじゃん」


 横目で二人を見ながら、奇人が言う。


 貴婦人は濃い緑のスカートで、大人と

 貞操を演出していたが、実際の中身は

 わからない。


 ブラウスは首のところに浅いフリルが

 ついていて、カワイイと思わせる作戦

 だった。


 おまけにこの服は、貴婦人の大きな胸を

 目立たせる。


 奇人はマンマとワナにはまった。


 貴婦人を褒めた後に、こっそりと視線を

 婦人の胸に移すことを忘れなかった。


 さあ、3人で楽しいマーチングだ。


 ワン、ツー、ぴょーん!

 ワンツー、ぴょーんぴょーん、着地...?


「おっと?...5 拍子かよ?

 ......やるじゃん!」


 奇人を驚かしたら、貴婦人の勝ちだ。


 奇人は被っていた山高帽を手にとって

 貴婦人に丁重にお辞儀をした。


 女性って、いざとなると大胆だ。

 5 拍子だって出来ちゃうんだから。


 奇人もプードルも

 ここからは貴婦人と一緒だ。


 ワンツー、ぴょーん、ぴょーん!着地。


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