天邪鬼な2人の歩み方

@mobukenn

目も合わない


向こうでアイツの笑い声が聴こえる。


ずっとアタシの隣に在たはずの声。


――――


どうしたの?澤村さんとってもこわい顔してるよ?


……へ?


友人(仮)の指摘に、つい素で返してしまった。


手元にあるスマホを鏡代わりに覗いて見る。

そこには、金髪ツインテールの美少女が不機嫌そうに口元をひん曲げて鎮座している。


ヤバッ、急いで誤魔化さないと。


アタシは口角を上げて何時もの……皆が求める澤村スペンサー英梨々としての優雅で上品な微笑みを作った。


もう一度手鏡代わりのスマホを覗くと、そこには漫画やアニメに出るようなお嬢様が鎮座している。


よし、これで大丈夫!


ごめんなさい、実は今日返されたテストの点数があまり良くなかったもので……


えっ澤村さんが良い点数が取れないなんて珍しいね!?……もしかして何か悩みとかあるんじゃ……


…………えぇ、悩んでるわ。この七面倒臭い女子会をどうやったら早く終わらせることが出来るだろうとか、冬コミで出す同人の内容とか。特に今期はある二つの作品が首位争いをしており、ネット上の評価も一進一退のせめぎ合いだ。……まーアタシ個人の意見で話すなら、あまり話題にはなっていないけど、昨日放送してたアニメがトップなんだけどね。原作だと後輩エンドだったらしいけどアニメだと原作レイp……オリジナル展開で幼馴染みエンドの入ってるのよね。……実際にさぁ、主人公が今まで一緒にいた幼馴染みを放っておいて新しく出来た女(後輩)靡くとか絶対に有り得ないから。不自然過ぎるから!。アタシが認めないからァ!。そこん所貴女たちはどう思う!?


………………なんて返せたら楽なんだけどなー。


そんな風にアタマではグチグチと考えているのに仮面である澤村スペンサー英梨々のクチは飄々と嘯く。


実は最近どこの高校へ進学するか悩んでいまして、勉強もあまり身が入らないんですよ。


そうだったんだ……私たちで良ければ相談に乗ろうか?


そんな、皆様のお手を煩わす訳にも行きません。それに進学は自分自身で決めなければいけませんから


流石澤村さん!将来について真摯に向き合っているんですね!


いいえ、アンタ達と高校に行ってもお話しを続けたくないだけですのよ、おホホホ。


―――


話が受験の話になっても姦しい彼女達。


最も、今話題の中心なのは、志望校に合格する云々かより、合格後の卒業旅行についてワーキャー言ってる状態だ。……何故か彼女立ちの中で私が行く事が決定事項なのは憤慨モノだけども……。


卒業旅行をどうやって自然に休むか頭を悩ませていると。


「いーや、あの改変は糞だね。マジで有り得ない!俺は後輩ルートを見たかったんだよォ!」


バキッと手から音が伝わった。


どうやら手近にあった鉛筆をへし折ったみたい。何人かコチラを見るので急いで取り繕う。


「嫌ですわ。昨日筆箱を落とした時に鉛筆が折れて「チクショー!幼馴染みとか主人公の横で心配層に名前を呼んでただけじゃねーか、後輩の方がよっぽど主人公の事を大事に思っていたね!」…………折れてた、みたい、ですのヨ……!」


「澤村さん、落ち着いて!顔が般若の様になってますよ!?」


……ハッ、危ない。ついついとあるクソオタに対する殺気が隠し切れなかったみたいね。


平常心……平常心よアタシ!


「やっぱ今期の覇権は先輩と後輩とクラスメートと従姉妹でのチーレムモノ一択だわ。幼馴染みなんて従姉妹の下位互換だしな」


……ッ……ッ…………!


「澤村さん、真顔で消しゴムを千切らないで!挙動の一つ一つに怨念すら感じる動きをしないで!」


……………………アイツ〇す。


アタシが脳内でバールのようなものでフルボッコしていると。


「やぁ倫也。久しぶり」


「…………あぁ、久しぶり伊織」


チッまたアイツか。

少し前、倫也がやたらめったら金魚の糞みたいにくっ付いていた同人ロゴ。


確か羽島伊織だっけ。

顔立ちも良く社交的で話上手。


そういえば、去年の夏頃から倫也とルツーショットになるような姿は見ていない。


「なぁ倫也。考え直さないか?僕にはお前が必要なんだよ。もうお前じゃなきゃ満足出来ない……!」


ウソ……!いつの間に出し抜いたの羽島伊織。

こんな事になるならママの提案通りサッさと朋也を拉致ってでも……


「オイオイオイ!人を勝手にお前のホモ営業に巻き込むなァ!アレだろ、コミケに付き合う的な意味だろ!曲解する様な言い方はよせ!」


「アハハ、倫也はホントにからかいがいがあるな」


……拉致は犯罪よね……ウン!


「どうしたの澤村さん、まるで万引きが見つかって親が迎えに来た時の様な顔をしているよ!?」


「いいえ……何でもないわ……ただ、少し一人にさせて下さい……」


「「澤村さあああん!」」


この後、これ以上ボロを出さない為に今日は体調が優れないと理由を付け早退した。


―――


「アイツやっぱホモなのかしら……」


帰宅し自分の部屋で横になると嫌な考えが頭を過ぎった。


……いや、無いか。


そうあって欲しくないと言う個人的な感情もあるが、何よりの証拠としてアイツがまだガチ系(濡場有り)のBL漫画&BL小説を買ってないからだ。


アイツの性格なら染まる時は一瞬で染まるからわかり易くて助かる。


そんな馬鹿な事を考えてたら陽は既に落ち初め、段々と街々の灯りが目立つ時間になった。


何の気なしに窓の外を眺める。


平日だろうと休日だろうとも深夜近くまで点いてるアイツの部屋の明かりはなく、住人の不在を表している。



あの頃だったらアタシは…………。


「あぁ〜〜〜!」


頭の中に浮かんでた考えを掻き消すように髪を掻く。


「ハァッ……ハァッ…………よし」


1通り落ち着くと何時もの仕事机に向かい、筆を動かす。さっきまでの甘い蜜のような妄想を削り落とすように腕を振るう。


思い付くまま、夢見るままに、幻想【妄想 】を現実に落とし込む。


夕飯の時間が過ぎ、窓から見えてた街明かりも随分と減った頃、その画が完成した。


PC上に映るイラストには二人の姿。


金髪の可愛い美少女と、地味目のメガネ男子が幸せそうにゲームをしている。


優しく甘い……まるで綿アメのような空間。


「……流石にコレはup出来ないなぁ」


完成したイラストを1通り見ると、そっと削除ボタンを押した。



窓辺に寄り息をつく。


月明かりの街を眺め、目的の家の灯りを見つける。


ココからなら簡単に見つめられるのに……。


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