蔓延する死
その頃、北朝でも動きがあった。
「……もし、京極殿」
「おや、これはどうなされた執事殿」
師直が呼び止めた相手、それは先日思わせぶりな反応をしていた佐々木道誉だった。
「少し場所を変えてしばし話をしたいのですが……」
「おやおや、隠し事ですかな」
本当に性質が悪い――師直は肩を竦める。
「おや、もう牡丹の季節ですか」
庭に、牡丹が大輪の赤い花が咲いていた。
「まるで、死人が求める赤い生き血のようですなぁ」
「……っ」
「それで、話というのは?」
「分かっているのでしょう?その死人の話です」
「おやまあ」
師直が珍しく身を乗り出す。
「……京極殿、貴方、死人について、何か知っているのではありませんか?」
「い、いやぁ私はただの武士ですよぉ、そんな事――」
「はぐらかさないで下さい!!」
師直が声を荒げる。さすがに面食らったのか、道誉も動揺を隠せないでいる。
「分かりましたよ、私が知っている範囲でお話しますよ。――ときに執事殿、西行法師が人造人間を作り上げたのはご存知ですか?」
「知っています。朝廷の秘術を試してみたものの醜いものしか出来ず、高野山に捨てたとか」
「……その秘術が、今も尚伝えられていたとしたら……?」
訝しげな師直の前に、巻き物が広げられる。
「実は私がこの事を聞くのを予測していたでしょう」
「さぁ。さて、これは、朝廷に伝わるという秘術の写し、そしてこれがさらにその基となったという秦河勝の書状の写しです」
見ると、砒霜や変若水など見慣れない語句が並んでいる。
「なぜこれをお持ちなんです?」
「私にも色々あるんですよ。色々」
「はぁ……」
笑みを崩さない道誉に深入りは不可能と判断したのか、それともこれ以上踏み込み情報を隠されるのを懸念したのか、師直の方から引き下がった。
「この書物によると、特定の媒介を介して自由に操れる死人が作れるようですなぁ。……さて、どうやら今の所、南朝の人間が主に死人化しているようですねぇ。楠木正成殿の他にも正季殿も死人化しているようですよ。……そういえば先日、捕虜とした恒良親王が突然亡くなった上遺体が消えたという騒動がありましたねぇ……」
「……まさか、後醍醐帝自ら、部下を死人として蘇らせている可能性があるという事ですか」
「さぁ。……そういえば貴方、近々北畠のお坊ちゃんを討伐に行かれるとか……。あの人は後醍醐帝のお気に入りですよねぇ」
「……承知していますよ。顕家殿が死人化すれば厄介ですからね」
「お願いしますね」
師直は苦笑いを返した。
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