第20話Another story 04 ハート・オブ・フードファイター(前編)

 メシは好きなだけ食っている。人から浴びるような賞賛を受けている。でも……オレはなにかに飢えていたんだ……。


 オレの名前は栗林駆(くりばやしかける)。

 オレが食に対して興味を持ち始めたのは小学校の給食の時からだ。隣の席のやつとの早食い対決がきっかけだった。オレ達が勝負をすると宣言するとクラスメイトの視線が集まった。それまで地味目のキャラだったオレは興奮した。そしてその初戦、オレは見事勝利したんだ。今みたいに圧倒的な勝利とかではない。僅差でギリギリだった。いってしまえばオレのほうがちょっと口が大きかったというだけの結果だ。

 その時勝利したオレは、次の日に別のやつから挑戦を受けることになった。また勝った。そしてまた次の日も別のやつから勝負を受けることになる。気付いた時にはクラス中の男子と早食い対決をしていた。そしてその全ての勝負に勝ってきた。その結果、オレはクラスで「キング」又は口の大きさから「カバヤシ君」と呼ばれるようになった。カバヤシ君というあだ名はイヤだったが、一部で浸透してしまうともう消すことは出来なかった。


 中学生になったオレは友人と近所のメシ屋に行った。そこにはこんなチャレンジメニューがあったからだ。

 ――爆丼。1000コスク。30分位内に完食できたら無料。

 当然オレはチャレンジした。「キング」としての自信があったからだ。……だが結果は食べきることさえ出来なかった。くやしかった。

 その日からオレは本格的に大食いの道にのめり込むことになる。

 まずはギャラクシーネットにて大食いの基礎を学んだ。効率のよい食べ方、水分のとり方、ペース配分の重要性、胃袋の拡張方法など様々だ。晩飯時にそれを実践したら親に驚かれたが、ウチの親はそういうことに理解があったらしく面白がってサポートしてくれた。そこで分かったのが自分には才能もあった事だ。どんなに食べても太らないのだ。これは大食い選手にとっては必要な才能の一つだった。

 そして一ヶ月後、オレは友人を引き連れて再度その店の門を叩いた。そして勝つべくして勝った。

 その結果は次の日にはクラス中の噂になり、面白がってあの店にもチャレンジメニューがある、この店は勝てば賞金が出る等、自然と情報が集まってきた。オレはそんな店に片っ端から挑戦状を叩きつけた。時には失敗することもあったが、2度目の挑戦では必ず成功させてきた。そして賞金で懐が潤ってくると地方の大食いチャレンジの店にも足を伸ばすようになる。

 そういう生活を続けているうちに気が付いたら高校生になっていた。その時には大食いチャレンジの店だけではなく、地方の大食い大会にも参加するようになっていた。参加し始めた当初はそれほどの成績を挙げられていなかったが、徐々に勝率が上がっていく。


 そしてオレが18歳の時に転機が訪れる。この惑星系では最も名高い大食いのテレビ番組「第875回惑星系大食い王決定戦」にエントリーしたのだ。その頃になると既に地方では敵無しになり、大食いチャレンジの店などは断られることが多くなっていた。

 この大会でオレは見事本戦出場を果たした。テレビでの煽りは「怪物高校生」だ。残念ながらこの大会では2回戦で姿を消すことになったが、この時オレの進路は完全に決まったと言っていい。プロのフードファイターだ。

 それからオレは大食いチャレンジをしてはギャラクシーネットの動画配信サイトのアップロードするということを始めた。「惑星系大食い王決定戦」本戦出場の知名度から、自分でも驚くほどのアクセス数をマークすることが出来た。そして昔「カバヤシ君」とバカにされた大きな口が意外と好評なことに気がつく。口が大きいため食べ方がキレイ、ボロボロこぼさないから観てて不快にならないなどといったプラスイメージの評価が多かったのだ。

 そしてある時テレビ出演のオファーがありオレはそれを受けた。その中で自分の昔のアダ名をポロッとこぼしてしまう。

 ――実は昔、口がでかいからカヤバシ君って呼ばれていた時期があったんですよ。

 そのテレビに出ていた出演者の中に他惑星出身者の、言葉のイントネーションが微妙な人がいた。

 ――えっ?カヤバ氏君?

 ――あはははは。カバヤ氏君!面白いっすねそれ!

 この時からオレのニックネームは「カバヤ氏君」だ。昔は嫌いだったこのあだ名だが今はなぜか心地がいい。覚えやすいニックネームがオレの知名度を更に上げてくれた。

 そしてこんな生活を続けていたらファストフード店など数社からスポンサー契約のオファーまで来た。完全に上り調子だ。


 そして22歳の時に運命の時がやってくる。「第876回惑星系大食い王決定戦」だ。この頃になるとオレはもうどの大食い大会に出ても負け知らずだった。敵などいない。そしてこの大食い大会でも圧倒的な力をみせ見事優勝した。

 オレの人気は最高潮に上り詰めた。テレビ出演のオファーや講演会、お金を払うから大会に参加してくれなど誘いの電話はひっきりなしにかかってきた。そんなオファーをオレは片っ端から受けた。心身共にかなり厳しい状態ではあったが、それを上回る充実感があったからだ。オレは今必死に生きていると。


 そんな充実した日々にも終わりがやってくる。やがて人気は下火になり、オファーの電話も目に見えて減っていた。

 だがそんなことよりももっと深刻な問題があった。

 ――ただ食べて下から出すだけの大食いに意味があるのか?

 自分のしている事に疑問を持ってしまったのだ。今まで通り動画もアップしたし、各オファーも受け続けた。

 それでも自分のしている事に対しての疑惑の念は晴れることはなく、いつまでもモヤのようにオレにまとわり続けた。


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