Answer09

■結果説明■


 嫌われる人、というのは、おおよそ共通項があります。

 ネットで検索するだけでも結構出てきますし、ビジネス書などを開けばよく書かれています。

 どういう内容からでもいいのですが、今回は手元にあったビジネス書『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(マーシャル・ゴールドスミス著 日本経済新聞出版社)から、リーダーが抱える20の悪い癖を引用することにしました。


①極度の負けず嫌い

②なにかひとこと価値を加えようとする

③良し悪しの判断をくだす

④人を傷つける破壊的コメントをする

⑤「いや」「しかし」「でも」で文章を始める

⑥自分がいかに賢いか話す

⑦腹を立てている時に話す

⑧否定、もしくは「うまくういくわけがないよ。その理由はね」と言う

⑨情報を教えない

⑩きちんと他人を認めない

⑪他人の手柄を横取りをする

⑫言い訳をする

⑬過去にしがみつく

⑭えこひいきする

⑮すまなかったという気持ちを表さない

⑯人の話を聞かない

⑰感謝の気持ちを表さない

⑱八つ当たりをする

⑲責任回避をする

⑳「私はこうなんだ」と言いすぎる


 そして小説で嫌われるキャラクターも同じです。特に主人公は。


 作品の傾向そのものが嫌われる場合は、おおよそ読者の偏見です。

 どういうジャンルであれ、面白いものは面白いのです。

 そして、そのジャンルが好きでない読者も取り込む魅力があるのが、本当の意味で面白い作品です。


 なので作品単体が嫌われるのは、登場するキャラクターの言動によるところが大きいというのは、なんとなくでも理解して頂けるでしょう。同じジャンルだと、長所も短所も似た傾向の主人公が登場しますから、結果、読者はジャンルそのものに偏見を抱くようになります。

 ここではジャンルに関係なく、主人公が悪印象を抱かれやすいか否かという観点で判断します。


 【《問01》主人公は、リーダー役として集団を引っ張る立場】がYES――リーダー格ならば、それだけ目立つということです。

 成功は当然とあまり評価されず、失敗は実際以上にあげつらわれやすいということです。


 【《問02》主人公は、ある場面での最初のセリフと最後のセリフ、両方を放つことが多い】はその発展形です。YESの場合、名目上リーダーではなくても、実際には話を引っ張る立場にあり、目立ちます。主人公ならば当然ですが、それとは少し異なります。

 最初のセリフが多い場合、場を仕切ろうとしている。最後のセリフが多い場合、自分の下した判断を実行させようとしている。どちらか片方ならばまだしも、両方が多い場合、[②なにかひとこと価値を加えようとする] [③良し悪しの判断をくだす] [⑩きちんと他人を認めない] [⑯人の話を聞かない] に該当している可能性があります。


 【《問03》主人公は作中で謝ったことがない】がYES――謝っていないのは、[⑮すまなかったという気持ちを表さない] に該当します。反省しない人は誰も嫌うでしょう。


 【《問04》主人公と同性のキャラクターは平凡、異性のキャラクターは美形が多い】がYES――同性は平凡、異性が美形キャラが多くても、一概に良し悪しは言えません。「ブサイク出して誰か喜ぶか?」という、作者の事情と読者のニーズ問題もありますので。

 ただ可能性で言えば、[⑭えこひいきする] に該当しているかもしれません。



 ここまではまだいいのです。全部当てはまらないキャラなんて無個性ですし、主人公として不適格と言えるやもしれません。

 ですが数多く当てはまる上で、後の問いがYESの場合、作品の評価を落とす危険性が高くなります。



 【《問05》主人公は、過去の記憶や超人的能力を持っている】について。

 主人公が特別であるのは普通です。『普通の高校生』なんて作中で書かれていても、主人公という立場にあるだけで特別なキャラクターなのです。

 それだけにここでYES――過去の記憶や超人的能力、つまり直接・間接を問わず、他人の人生に影響を持ちえる場合、これまでに出てきた悪い癖を、強化する危険が高まります。


 わかりやすいのは、技術レベルが現代社会より劣った世界に、現代の技術を持ち込む、いわゆる内政・技術チートを行う物語です。

 製紙でも石鹸でも銃でも農業技術でもなんでもいいです。主人公にとっては既知のものでも、その世界にとっては未知で革新的な技術を持ち込む、あるいは作り上げる。

 ということは、主人公は正解を知っているということです。

 その世界の技術者が、その技術を開発しようとしていたら、正解か否か[②なにかひとこと価値を加えようとする] セリフを放つことになります。というか主人公は正解を知っているのですから[③良し悪しの判断をくだす] ことになるでしょう。技術者が間違っていたら、そのキャラの、それまでの頑張りといったものを[⑯人の話を聞かない] [⑩きちんと他人を認めない] 上に、[⑤「いや」「しかし」「でも」で文章を始める] [⑧否定、もしくは「うまくういくわけがないよ。その理由はね」と言う] を行って否定しなければなりません。

 そして自分が異世界の知識を持っていることを周囲に隠しているなら、[⑬過去にしがみつく] 記憶を持つ[⑨情報を教えない] のに、[⑥自分がいかに賢いか話す] ことで、真の発明者でもない人間がその技術の完成という[⑪他人の手柄を横取りをする] 結果となります。

 これだけ危険性が高いのに、上記の設問内容でも当てはまる主人公ならば、それだけ読む人から嫌われやすくなるのは、想像できるかと思います。


 続けて【《問06》主人公が内容を語る一人称形式である】

 三人称形式は客観的に説明する文章なので、キャラクターの言動が読者に伝わるまで、ワンクッションあります。一人称形式であっても、ストーリーテラーが主人公以外のキャラならば、同じように緩和されます。

 誰かの愚痴として『その人物が如何にイラつくか』を聞かされても、聞き流すことも、笑い話にすることも、冷静な第三者的意見を出すこともできます。

 しかし主人公が直接読者に説明する書き方では、クッションがありません。主人公が悪感情を抱かせる言動をした場合、ダイレクトに読者へ見せつける結果になります。

 周囲をイラつかせる人と、わざわざ面と向かって話したいと思わないでしょう?



■改善■



 改善は不可能だと思っていいでしょう。

 まず、主人公は主人公であるだけで、悪印象を受けやすくなるのですから、どうしようもありません。舞台の隅っこに立つ主人公なんて、主人公ではありません。

 さらに主人公というのは、作品の大筋とも言っていいでしょう。しかもセリフひとつの問題ではなく、根本的な言動や思考回路が問題となるのです。

 それを変えるのは無理でしょう。『変えろ』と言われても、作者さんは嫌でしょう?

 一から書き直すか、見切って別作品を作るしかないので、どうすることもできません。


 そして改善が必要か? という話にもなります。

 嫌われ主人公でも、作者さんは突っ走る気マンマンなら、それはそれでいいわけですから。評価されるかは別問題として。

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