宵闇の銃姫~俺は異能力なんて使えない~

春宮 祭典

プロローグ~俺は目撃したくなかった~

街灯の光が届かない大通りの裏路地。

真っ暗になったアーケード商店街に響き渡るハイヒールの音。

カツン、カツンと規則正しく刻まれるリズム。


一人の少女が歩いている。その雰囲気や服装は一見すると大人だが、端正な顔にわずかに残ったあどけなさがそう見せるのだ。


突如、彼女に向かって光が差す。それとともに先ほどまで刻まれていたリズムは止まる。


「探したぞ!宵闇の銃姫、市橋ルナ!」


光の正体は懐中電灯のようだ。三本光があるため三人居るようだ。それを手に持つのは青い制服の男達。鍛え上げられた肉体と、特徴的な帽子からして警察の人間辺りだろうか。


市橋ルナと呼ばれた少女は肯定も否定もせず、興味無さげにその男達を見ていた。


「貴様には殺人、銃刀法違反などの罪で逮捕状が出ている!おとなしく署まで来てもらおうか」


真ん中にいる男が声をあげると、少女はやはり興味無さげに口を開く。


「心外ね。私は土人形を撃っているだけ。銃刀法違反は認めるけど、私は貴方たちに従うつもりはないわ」

「警察をなめてるのか?土人形を撃った程度でこんな大事になるはずがないだろう!」


男の返答に呆れたのか少女はため息をつき、そして腰の辺りに右手を置いて口を開いた。


「上からの命令でしか動けない三下には分からなくて当然でしょうね。私の言ってることも、貴方自身の存在についても」

「警察をナメるのも大概にしろ!」


真ん中の男が叫ぶと、両端にいた男達が手錠を持って走ってきた。

男達は少女にどんどん近付いていく。


少女は諦めたのか何か策があるのか笑みを浮かべて立っている。


そして、あと一歩で彼女の手に手錠がかかるというところで、突如、乾いた破裂音が響いた。


真ん中にいた男は最初、それが銃声だとは気づかなかった。彼女に向かって行ったもう一人の男が足を止めた瞬間に撃たれ地に伏すのを見て、それに気づき、三発目の銃声で自分が窮地に立たされていることを知った。


だが、それはあまりにも遅すぎた。


訪れた静寂のなかには少女と、崩れてもう人の形をしていない土人形が三体、転がっていた。


「自らが土人形だってことすら知らないのね。可哀想に」


そういう少女の表情は完全な無表情で微塵も可哀想などとは思っていないように見える。


俺、金剛ツカサは恐怖によって動けないままバッチリ見てしまった。最初から最後まで。


少女は俺に気づいていないのかそのままアーケードを抜けて夜の闇に消えていった。


12月31日。吹き付けた風には少しばかり土の臭いが混じっていた。


そして、つかの間の冬休みの終了と共に担任から渡されたのはある学園からの推薦だった。

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