3月30日。始まる迷走
【凶報】シノンさん、またポエムを書き始める
最初に小説を書いたのは小学生の時だった。
桃太郎をモチーフに、荒唐無稽なことばかり書き連ねた。
手書きの原稿が父親に偶然見つかり、鼻で笑われた。
次に形にしたのは中学三年の時だった。
ホラーだかミステリーだかよく分からないものを書いた。
パソコンから印刷した原稿を、友人達に笑いものにされ、今でも黒歴史として話のタネにされる。
高校生になっても書いていた。
小さな小説投稿サイトで連載し続け、それなりに好評だった。文章を書くことの楽しさを心から理解した。
ただ父親にも友人にも秘密にしていた。
大学生になった時。小さなサイトは潰れてしまった。
だから他の、もっと大きなサイトに移住した。高校生の時の作品をリメイクして書いた。コンテストに応募した。書籍化した。思い出の作品が、多くの人に認められたのだと思った。
父親にも友人にも祝われた。全てが好調だと思った。
ただ、現実は甘くなかった。
売り上げが振るわず打ち切りになった。
酷評された。
ネットという井戸の中から、世間という大海に出た蛙は、溺れ死んだ。
泣きながら嘔吐した夜もあった。
一冊も本を読めない日々が続いた。
気晴らしにアニメを見ても、「なんでこんなのがアニメになって俺のはダメだったんだ」と嫉妬に狂った。
そうして無意味に時間が過ぎた。
小説なんて嫌いになった、つもりだった。
ネットに悪口を書き込むだけで満足するような嫉妬心だったら、その程度の嫉妬だったら、どれほど良かったことか。
小説なんて根暗で気持ち悪い人間の趣味だ。どうせ儲かりはしないんだ。時間の無駄だ。
そんな風に、思えなかった。だから辛くて苦しかった。
気付けば性懲りもなく、また物語を書き始めていた。
他人の作品を読むようになった。
アニメも漫画も、また笑って見ることができるようになった。
「早く続きか新作を出せよ」と友人は言ってくれた。
「可能性があるならやってみろ」と父親は言ってくれている。
「面白いもん書きてぇなぁ。面白いもの、読みてえなぁ」どうやらこれが、本心だった。
今日も俺は本を読んで、書いています。
みっともなくて、無様で、辞めりゃあ良いのに。まだ、書いています。
誰かに言われたことをそれなりの完成度でこなすのは得意でした。そして「もうやらなくて良いよ」と言われたら、ピタッと止めてました。
でも思い返せば、自分のやりたいことは『コレ』しかありませんでした。
だから誰かに「やめちまえ」と言われても、辞めません。止まりません。退くも進むも自分が決めます。自分が『書いて、読む』と決めたから。
しかしどうして、自分のやりたいことばかり、上手くいかないんですかね。だからこそ『やりたいこと』なのかな。
……さぁ、今日も行こう。歩いて行こう。
小学生の時からもう10年もやり続けてきたんだ。
待ってる人達がいる。期待してくれる人達がいる。
まだ足も腕も指も動く。文字を書き連ねることはできる。
たったそれだけで、もう少しだけ、歩いて行ける。
ぼく「♪カンチュリーローードwwwwwwテイクミーホーームwwwwwwwトゥザプレイスwwwwwアイビロォォォォォング♪wwwwwwwwwwwww」
幻聴の女の子「カントリーロードを原曲で歌いながらポエムを書いてる……! どこの故郷を想っているの!? 実家暮らしのくせに! 一体どこを懐かしんで歌っているの!?」
ぼく「あーあ、毎日イチゴの種を取り出すだけで大金が入ってくる仕事がしたいなァァァァ!」
幻子「どこに需要があるのよその仕事! 小説を書き続けるんじゃなかったの!?」
ぼく「うるせぇぇぇ! 30代後半の声優さんが若干のムリをして10代前半のツンデレキャラを演じてる時みたいな声してるくせに! 幻聴が俺にゴチャゴチャ話しかけるな!」
幻子「酷いわ……! あなたって本当に最低のクズだわっ! 一生『信長の野望』で斯波家縛りでもやってなさいよ! 必死こいて東北統一して、後は意外と作業ゲーにでもなってれば良いんだわ! もう知らない!」
ぼく「言われなくても次は姉小路家で全国統一してやるよ!」
ぼく「……くそっ。どうしてアイツの前では素直になれないんだ……」
つづく
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