丁度暇になったところだ。

熊野 豪太郎

第1話

人を喰う怪物が出るらしい。怪物の好みは22歳の女性の肉だそうだ。

俺は、記事が載っているオカルト誌の内容に、呆れを通り越して興味が湧いた。怪物が出るという森は、ここから割と近い場所にあった。いいだろう。どうせなら、その森に行って噂の真偽を確かめてやる。丁度暇になったところだ。と、思って、道端に読んでいたオカルト誌を捨てる。元々道に落ちていたものだし、ポイ捨てしてもなんの影響もないだろう。戻るところに戻っただけだ。

森へは、車で向かうことにした。近いと言っても、歩くには面倒な微妙な距離にあったのだ。

人は、いつも何かに乗ってきた。今は車や電車、飛行機に乗っているし、昔は蒸気機関車、馬に乗っていた。更に昔は、マンモスにでも乗っていたのだろうか。くだらない考えだ。俺は頭を振ると、運転に集中する。

徐々に人気が無くなっていく。車のボンネットも、最初こそ街灯の光を反射していたが、人が少なくなっていくにつれて、だんだんその光を失っていった。

森が見えてくる。何かの鳥が、森の奥から飛び立って、車を通り過ぎていった。なんだか怖くなってきたが、引き返すのも、嫌な気持ちだった。だからアクセルは踏んだまま。車はどんどん森に近づいていく。

森の入り口に着くと、車に備え付けてあった懐中電灯を手に持って、車を降りて、鍵をかけた。少し覗いて、ちょっと奥に入って、引き返してこよう。俺の心臓が、警告音のようにばくんばくんと身体中に血液を送る。しかし、その血液は、すっかり冷たいものになってしまっているような気がした。

俺は勘や神様は信用しないタチだが、自分自身のことは一応信頼していた。だから、背中を伝うこの冷や汗が、深入りしてはいけない。と伝えていることも、しっかり理解していた。

懐中電灯を森に向けると、木と木の間を通って、森の中に入る。道はどうやら獣道になっているようだ。無理もない。ここ周辺には、家どころか犬ころ一匹も見当たらない。道が舗装されていないのは当然のことだろう。そう考えながら、じゃり、じゃり、とまばらな大きさの砂利を踏みしめながら、先へ進んでいく。

しかし、歩いて2分もしない内に、森林は鬱蒼と茂って、獣道を隠してしまった。これ以上は進めそうにない。俺の中で鳴り響いていた警告音も、やがて静まっていった。

いい肝試しにはなった。というところだろうか。俺は深く茂っている森の奥から、来た道へ戻っていった。帰ったら、ビールでも飲もう。そう考えながら、森の入り口に戻ってきた。開けっ放しになっていた車に乗り込むと、Uターンしようとアクセルを踏む。しかし、その瞬間俺はあることに気づいてしまった。


鍵を閉めたはずだ。


そして、それを最後に俺の意識はプツリと切れた。


今日は気分がいい。どこか遠いところへ行ってしまいたい気分だ。僕はそう思いながら、意気揚々と街を歩く。しかし、スキップに近い歩みをしていた僕は、何かを踏んで転んでしまった。雑誌のようだ。

いてて、人が気持ちよく歩いてるってのにどういうことだ。なんて心の中で思いながら、踏んづけた雑誌を拾い上げる。オカルト誌のようだ。雑誌には「人を喰う怪物が出る森!」などと書いてあった。僕はその雑誌の内容に、呆れるを通り越して興味を持った。いいだろう。これからその森へ行ってやろうじゃないか。


丁度暇になったところだ。

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丁度暇になったところだ。 熊野 豪太郎 @kumakuma914

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