世界の中心はアタシ
熊野 豪太郎
第1話
アタシは、高校二年生の、いわゆる「女子高生」だ。親友たちと遊んだり、プリクラを撮ったり、カレシと付き合ったと思ったら別れたりするような、典型的な「女子高生」だと、自分でも思う。
だけど世の女子高生のほとんどは、基本的に「自分」を中心に世界を回していることに、気づいていない。本当は気づいているのかもしれないけど、わざと見ないようにしているのかもしれない。
自分が回している世界が、本当はみんなと同じ世界だということに気づくのが怖いとも言える。アタシはいつも、典型的な女子高生の行動をした時に、こう考えてしまうのだ。
そして、女子高生の、「世界を回すためのツール」として、最も利用されているのが、SNSだと思う。個人で話したい時も、みんなに何かを知らせたい時も、いつもみんなが利用するものだ。どこでも使えて、どこでも楽しく過ごせる。
みんなも、一人でいることが寂しかったり、怖かったりするのかもしれない。
もちろんアタシもその一人で、家にいるときでも、電車に乗っている時でも、さらには学校の授業中でも、携帯電話に目を落とし続ける。アタシも、結局凡庸な人間の一人に過ぎないのだ。
だけど、そんなアタシにも、一つだけ趣味がある。
他人の不幸を覗くことである。相手が、アタシみたいに、凡人であればあるほどいい。「カレシと別れた。」とか「告白して振られた。」みたいに、悩みや苦しみが、簡単であればあるほどいい。その度に少年少女は、まるで自分が回している世界がとまったように感じて「今ワタシが世界で一番フコウだ。」と考えるのである。
そして、それを観察するのに絶好なコンテンツが、SNSである。これを使えば、知り合いの苦しみが、大量にアタシのもとに入ってくる。アタシはそれを眺めて、「つまらない」と思う。その瞬間が、今の人生で一番の楽しみなのだ。
少年少女たち思春期の人間は、舗装された道から、急に棘が大量に生い茂っている獣道になったように、いきなり人間の闇の部分に触れる。その「闇」は時には「あの女から男を奪ってやる」とか、「誰とでもいいから性交をしたい。」などという、理性の備わった大人ならまず考えないような、軽い考えをさせてしまう恐ろしいものだ。その闇に触れ、理性を覚えていって、一人前の大人になる。だから、この獣道は、誰でも一度は通るようなものなのだ。
アタシは、その獣道を通って、軽率な考えを持って行動しだした動物達のもがき苦しむ姿を見るのが、楽しくて仕方がない。歪んでいるかもしれない。でもアタシはそれでもよかった。自分の心のグラスが、どろどろとした液で満たされていくことに、一種の快感を覚えていた。
そんな時だった。アタシがいつものように、携帯のアプリを開いた瞬間に、一件、知らない人間からメッセージが届いた。疑問に思って見てみると、メッセージは、スパムのような文章で、こう書いてあった。
人の不幸をあなたにお届け
あなたの知り合いに起きた不幸を、あなたにお届けします。まずはお試しで、こちらの動画をご覧ください。
その下にその動画へ飛ぶURLが書いてあった。普通なら無視するところだが、自分の趣味にドンピシャなことと、その文字列が放つ不思議な魔力が、アタシの指を動かしてURLをタップさせる。
動画は30秒程度の短いものだった。そこにまず映し出されたのは、チエだ。私の友達の一人である。ついこの間、カレシができたばかりのチエ。いつ別れるか楽しみにしていた人間の一人だった。しかし、なぜチエが映されているのだろう。この動画は誰が撮っているのだろう。色々腑に落ちない点はあったが、動画を見ることに集中することにした。
「嘘でしょ。そんなの信じられない。」動画の中のチエは、声を震わせながら言う。画面は切り替わると、チエの彼氏を映し出した。
「ごめん。他に好きな人ができたんだ。別れよう。」彼氏は、そう言うと、泣き出したチエから背を向けて、去っていってしまった。
動画は、ここで終わっていた。ハッとして、SNSのみんなの投稿が見れるタイムラインを更新する。すると、チエが
「彼氏に振られました。ありえない。一生私は彼を恨み続ける。なんで私ばっかりなんだろう。」という内容の記事を公開していた。
つまり、このサイトで知人が不幸になると、この動画が見ることができる。そういうことなのだろうか。気になる点はいくつかあったが、アタシは、小さな笑みを漏らした。アタシはその時から、その動画サイトに夢中になった。
そして知人が不幸になる目前で、いつも動画が更新されるようになった。どこの誰かはわからないが、アタシにとって、ここまでの楽しみは、他になかった。
リオが風邪をひいて、遊園地に一人だけ行けなかった。ハナが告白して振られた。お金が足りないと嘆いていたエイコは、痴漢冤罪がバレて学校を停学になった。不幸は毎日更新され、アタシを愉しませる。SNSを見る限り、起こった不幸は全部本当に起こったことだった。
だけど全然足りない。もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっと・・・。
しかし、ある日を境に、急に動画が更新されなくなった。今日で更新されなくなって3日目、アタシは悶々として、もう不幸は見ることができないのか。と悲しんだ。
「誰か、不幸にならないかな。」待ち続けていて、我慢できなくなって、そう漏らした時、背中をちょんちょんと指で叩かれた。誰だろうと振り返った瞬間
ごん
鈍い音と共に、アタシは地面に転倒した。わずかに目を開けると、女が一人、金属バットとビデオカメラを持っているのが見えた。
「チエ・・・?」全てを察した瞬間、金属バットが振り下ろされた。
世界の中心はアタシ 熊野 豪太郎 @kumakuma914
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます