プロローグ

二人の陰謀

━━大量の機械のひしめく、巨大システム室━━


モニター付近のみが煌々と光っていた。その中を迷いもせず、メインモニターに向かう人影。メインモニターの前には、一人の黒髪美少女が画面とにらめっこしている。


「……βはそろそろオープン出来そう?」


やってきた人影がモニターの光に照らし出される。こちらも美少女と言っても過言ではない。桃色の髪をツインテールにしたメガネ美少女だ。


「はい、完成してございまする。あとは『メインディッシュ』のみでごさいますよ、姫様。」


そう答えた彼女は不適に笑う。ワクワクしていると言って良いだろう。


「……基、ねぇ。」


モニターを後ろから眺めながら、こちらも愉しそうに笑う。


「そちらも『完成』されたんですよね?」


『姫様』と呼ばれた少女が微笑む。


「ええ。問題は『彼女』らと『勇者』の相性かしら。ま、baseよりは素直で常識あるはずよ。そうねー、幻光。あんたより出来ない分、慎重に行動するんじゃないかしら。」


「さらりとディスって下さりやがりますねぇ!確かに、わたくしみたいな両極端な存在は中々いませんがね。」


愉しそうに豪快に笑う『幻光』。


「しっかし、よく考えましたねぇ?『Private Maid Servant』とは。」


「『至れり尽くせり』を味わいながら、漫遊する。一般playerとは違った視点でのmonitorは必要よ!」


仁王立ちで力説するが、相手は一人しかいない上に、低身長なために威厳は見られない。しかも、フリフリの甘ロリ着用。対する幻光は闇に溶け込む藍色地の着物。そんな彼女はカタリとキーを押す。音声による、盛大な拍手音と共に自らも拍手をした。……正直、無駄な機能である。


「んで、三人まで絞りたいのね?」


颯爽と切り替える。


「はいはい、選出は十名でございます。こちらからお選びくださいませ、我が主。」


……ただの余興だったらしい。カタカタとデータベースを開いていく。まるで履歴書のように人物の写真と簡単な個人情報が載ったものが十枚、画面に並ぶ。


「応募者の中から、姫様がお気に召されそうな方々を選出して見ました。」


満足そうに画面を食い入る姫様。手に持っていた三枚の写真をキーボードの上に並べ、見比べ始めた。


「……ほう、全て『妹』仕様でございますか。」


マジマジと見つめる。三枚の写真にはそれぞれメイド服を着た美少女が写っている。左から、『結那(以下ユウナ)』・『小桃(以下コモモ)』・『胡蝶(以下コチョウ)』。ユウナは金髪でボブカットの気の強そうな美少女。コモモはロップイヤーの耳と尻尾のついた、ロリの中でもアリス寄りなふわふわ美少女。コチョウは癖っ毛ショートの無表情で、ロリの中でもハイジクラスの幼女。


結城ゆうき君とすももちゃんとすみれさんの妹……ですな。顔立ちが似てらっしゃる。」


結城は生意気小僧を絵に描いたような美少年。李は天然記念物並のローテーションウサミミ娘。菫はニンジャ並の無音走行までする無表情娘。……全て個性溢れるAndroidである。元の制作者は姫様の姉だが、専ら行方不明だ。誰も探しには行かないけれど。このbase作成者は置いておくとして。

二人は応募者の、更に(姫様好みに)選出された青少年から、三人を選ぶ作業に入った。


「基本的には男の子よねー?でも、女の子も入れましょうよ。」


「そうですな!我々が愉しくないですし!」


既に趣旨が在らぬ方向に進んでいるが、性格上仕方ないことだろう。二人は見た目麗しいが、独り身である。


「一人は彼女いない歴イコール年齢がいいわ!もう一人は彼女持ちで!」


……鬼畜な希望である。しかし、幻光は意気揚々とデータベースから該当者を割り出していく。


「そうしますと、こちらなんて如何ですか?」


まるで商品を勧めるかのようである。『影山颯人かげやまはやと、御年十七歳。彼女は画面の中』。『四條英太郎しじょうえいたろう御年二十歳。彼女は女子高生モデル』。姫様はサムズアップした。……男性犠牲者ゆうしゃ確定。


「女性はどうしますかね?十六歳から二十八歳までいらっしゃいますよ。職業も様々ですな。女子高生に女子大生、女医に婦警……。」


そもそも、警察官が応募者の中にいることが問題だ。


「……結城道連れにして、女医さんと婦警さん採用しよう!」


……姫様の思考回路をまず、分析して頂けないだろうか。こうしてAndroid側も犠牲者ゆうしゃを出し、女性も確定した。


「partnerはどうしようかしら?」


流石に悩んでいる。データベースとにらめっこをしながら、悩む。


「颯人様の二次元対象年齢や属性は…………!!『正統派妹系』に『ケモミミ属性』です!」


「よし!コモモだ!」


影山颯人・コモモペア確定。


「英太郎様の彼女は…………?………女子…高生?姫様、これ……。」


「ん?……何かデジャブるわね。」


何故か目をそらす姫様。……彼女は、どうみても幼い可愛い小学生だった。


。コチョウをつけましょう。」


四條英太郎・コチョウペア確定。……可哀想に。


「あとはもう、ネタフ……ry。こほん。何でもないわ。婦警さんにユウナ、女医さんに結城ね!」


「『磯崎麻里絵』様にユウナちゃん、『神楽坂未琴』様に結城くんですねー。」


カタカタと作業をしていく。姫様の野望の餌食にされた四名の応募者、そして、元々そんなことの為に造られた訳じゃない四名のAndroidが確定した。


~・~・~・~・


そもそも、何ので何の『monitor』なのか。話は数ヶ月前に遡る。姫様と幻光は異常なアニメヲタクだと先に説明しておこう。『MMORPG』は昔からやっていた。最近巷で、『VRMMORPG』なるものが流行っている。しかし『アニメ』の世界で、だ。


「幻光!おまえの技術ならば再現出来るはずよ!まさにこれは、『二次元世界』!ボクたちの世界だわ!多種多様なるmonsterやweapon、job!そして、広大なるfield!おまえの網羅したゲーム知識を活かすときよ!」


「畏まりましたです!我らの我らによる我らのための世界を!わたくしの脳内世界をご覧にいれましょう!(自称)に恥じることのないものをお造り致しますですよ!」


そして物の数ヶ月で、β版は完成してしまったのである。彼女たちの脳内を余すところなく、反映した世界はどこまで恐ろしいことになっているのか。更に『仲間』を増やすべく、monitor募集をしたのである。応募総数はまさかの数百万規模。それだけ興味のある人間が多いのだろう。その上その中から漏れなく、『Private Maid Servant』と呼ばれるサポーターがつくとあっては期待も高まるものだ。……結果的に『Private butler Servant』が一人増えたわけだが。

正直、メイドや使用人なら二桁くらいは派遣できるらしい。けれど、皆それぞれに役割があるようで。本来の仕事はどうしたと突っ込んではいけない。実際は使用人だけに飽き足らず、先ほど『姉』と表記した者以外の家族や、友人たちが暇をもて余して『NPC』を名乗り出ている。更にそれが原因で、『完全無料VRMMORPG』と銘打つことになった。それも相まっての応募総数なのだろう。金持ち連中が暇と金を注ぎ込んだ恐ろしいゲーム。……別の意味で危険だ。しかも、厨二や電波並のヲタクを筆頭にしているのだから質が悪い。NPC。ちゃんと仕事をしてくれるか怪しいメンツがかなりいるが、それも醍醐味だと言わんばかりである。

既に応募者全てが、彼らの道楽の犠牲者だ。果たして、どんな世界なのだろうか。一筋縄では行かないことはわかっている。


さぁ、『Princess's Garden Online』のβ版開始だ!

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