第5話

「魔王は今、どこにいる、マジェイン?」

 ジトの質問に、マジェインは恐る恐る答えた。

「魔王様は、異界を征服に出かけられておる。貴様など、出会う前から殺されるぞ」

「異界? それはどういう。別の国か。別の星か。それとも、別の次元か」

 ジトは焦った。ジトが契約を結んでいる堕天使の支配力がわからないからだ。天体を動かすくらいなら、ジトにもできる。だが、本当に宇宙を破壊するような魔王がやってくるなら、終わりだ。ジトのせいで、この世界は終わることになる。

「知らぬ。わからぬ。魔王様は謎の多いお方だ。口にするのもはばかられる」

「だが、マジェイン、おまえを殺すには、魔王を殺すしかないんだろ」

「白状しよう。ずばり、その通りだ。わたしは生きる人形にすぎない。だが、なぜ、それくらいのことで、魔王様にご迷惑をおかけしなければならないのだ。わたしの命など、魔王様は塵とお考えになっておられる。貴様、自分がどれだけ思い上がっているのか、わかっているのか」

「ふん」

 ジトが鼻で笑った。

「ジト、おまえに果実を与えよう。天使すら堕落させる魔界の果実だ。それで、取引しよう。魔王様には手を出すな」

 リリは迷った。これは、ジトは交渉に勝ったのではないか。ジトは魔界の果実を食べて、魔族になるのだろう。うらやましいくらいだ。

 だが。

「ごめんだね。魔界の果実など、くそくらえだ」

 ジトはいった。

 マジェインもそれに満足した。魔界の果実を食べるものは、カモなのだ。その程度の相手に苦戦したとあっては、マジェインの恥だった。

「では、意地でも、今のうちに貴様を殺さなければならないようだな」

 マジェインがすごむ。

 だが、先手を打ったのは、今度は、ジトの方だ。

「マジェインの命をたどって、魔王の居場所を突き止めろ。マジェインの命と交換だ。井出よ、魔王ジュピロ・スロバース・マスミカケフ・イガース」

 そして、見るも巨大な異形の怪物が現れた。どれほど巨大なのかわからなかった。ひょっとしたら、この星よりデカい。引力で、海の潮汐が変わる。大地が歪み、地震が起きた。

 魔王ジュピロが異界の遠征を中途で切り上げ、自分の領土に帰ってきたのだった。

「余の手をわずらわせるほどの大事か、マジェイン」

 吠えるような怒声が魔王から聞こえた。

「いえ、決してそのようなことはありません」

「ならば、なぜ、余が来ておる。汝の罪はすでに許容できぬ」

 そして、マジェインは死んだ。時空を超えて、つぶれて死んだ。

「余と勝負するつもりらしいな、若者よ」

 ジトは緊張して、声が出なかった。

 リリは、緊張のあまり、感じ始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る