第3話
チンジャオロースが美味い。
「飯食ってる場合じゃねえ」
ジトが箸を机に叩きつけた。
「うん? どうしたの、ジト」
リリは眠らされるまでの記憶しかない。
ジトには、マジェインを一回、倒した記憶があった。
「今から、マジェインが襲ってくる。やつをあまく見ていた。あいつ、講義じゃ、本気を出していなかったんだ」
「だから、ジト、マジェイン先生は殺しなんてする人じゃないって。わたし、白昼夢を見たんだけど、ジトが敵だっていってるのは、ザペインっていう別の魔術師さんだったよ」
「だ~か~ら! リリ、きみは自分の未熟さに気づくといい。世の中には、魔術師や化物がわんさかいて、そいつらは本当のことはなかなか教えてくれないんだ。おれが禁書を読んだのも、無理矢理読まなければ、一生、読めないからだ」
「ふうん、やっぱり、禁術を本当に読んだんだねえ。何が書いてあったかは、わたしに教えなくていいからね。わたしまで追放されちゃうから。ジトは、一生、禁術のことを黙ってることを条件に、弟子に入りなおすべきだよ」
「そんな暇はない。マジェインがまたおれを殺しに来た」
見ると、暗黒の塊が飯屋に近づいてきたところだった。
「何あれ?」
「だから、マジェインだよ。魔術で、姿を隠しているんだ」
ジトとリリは店屋を出た。
暗黒の塊は、溶けて、太った魔術師の姿になった。
「やあ、わたしはザペインというものだ」
「そんなわけあるか。魔術封印」
ジトの魔術封印が太った魔術師にかけられた。太った魔術師は、姿を変え、マジェインの姿になった。
「うそっ、マジェイン先生!」
リリが始めて気づいた。マジェインが怪しげなことをしていることに。
「リリ、きみはもう一度、眠っているといい」
「させるか、他人魔術干渉」
ジトが、リリに向けられた睡魔の魔法をマジェインに返す。だが、マジェインは眠らなかった。
「わたしの魔術に介入できるとは、ジト、きみはいったいどこでその魔力を手に入れたのかね。その若さで、その魔力をもっているのはおかしい」
ジトは黙った。実は、ジトの魔力は、山奥の谷に住む堕天使の魔力を借りているのだが、そのことに気づかれたらヤバい。マジェインが堕天使に勝つことはまず考えられないが、ジトと堕天使のつながりを断たれる恐れは可能性としてある。
「小悪魔に食われろ、ジト」
マジェインが魔術を使って、小悪魔を召還して、ジトを襲わせた。だが、小悪魔はジトに手なづけられて、肩の上で甘えている。
「嘘。本当に、マジェイン先生はジトを殺そうとした」
リリが驚いていると、そんなことどうでもよくなるようなことが起こった。
「おれをあまく見ない方がいいぞ、マジェイン。高等悪魔召還。マジェインを食らい尽くせ」
屋根より背の高い悪魔が現れ、マジェインにかぶりついた。
「どうだ。悪魔に食われれば、さすがに死ぬだろう」
ジトは、慎重に様子を見た。
「悪魔よ、ひかえよ。我は、魔界を統べし三十六公爵の一人であるぞ」
マジェインがいった。
そのことばは本当のようだった。ジトはビビり、リリは怖くて失禁し、悪魔は恐れて飛んで逃げた。
「こいつはやべえ。おれたちは、ずっと何年も知らずに、魔族の弟子をやっていたのか」
ジトは震え上がった。リリはジトにしがみついた。
「怖い。ジト」
「そのまま、しがみついてろ。次は、あいつ、本気を出して襲ってくるぞ」
リリの胸がジトに押しつけられた。
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