破門された魔術師の弟子

木島別弥(旧:へげぞぞ)

第1話

 魔術師の弟子が破門された。その名をジトという。

 ジトは、好き勝手に禁術の魔道書を読み漁る問題児だった。ジトによって、数多くの禁術が世に出まわり、世界は混沌としてきた。だから、魔術師の弟子を破門されたのだ。

 城の中を逃げまわり、浮浪者のような生活をするジトは、禁術を知っているという理由から、お城の役人に秘かに狙われていた。

 そんなジトに、リリという娘がいう。

「だから、あきらめて師匠に謝りなさいよ、ジト。破門されて逃げまわってるなんて、バカみたいだよ」

 ジトはいきようようと反論した。

「おまえ、おれが読んだ禁術の内容を知らないんだろ。それなのに、謝れば許されると思ってるなんて、大きな勘ちがいだよ」

「もう、いい加減にしてよ」

 リリはジトを説得しようと、まだ粘る。このリリという娘は、ジトのかつての師匠マジェインの弟子仲間だ。弟子の間は、あまり話したこともなかったが、破門されてから、やたらとジトを追いかけてくる。

「マジェイン先生だって、反省すれば許してくれるって」

「それはあまい。マジェインはおれを殺そうとするだろう」

「そんな……あの温厚なマジェイン先生が殺しなんて。考えられない。でも、だったら、なおさら、早くマジェイン先生に謝らないと、ジト、死んじゃうよ」

「ははははっ、おれがマジェインに負けると思ってるのか。マジェインなんて、返り討ちにしてやる」

「ジト、それは絶対に無理だって」

「やってみなくちゃ、わからないじゃん」

「バカ」

 リリは愛想をつかしたようだった。

「なんでもいいから、力づくで連れて帰る」

 リリはジトの服を引っ張り始めた。リリの力でよろけて、ジトがつまづく。

「おっとっと。やめろよ、リリ。いい加減にしないと、おまえから、始末するぞ」

「なによ。わたしを殺そうっていうの。バカバカバカバカ、ジトは破門されておかしくなっちゃったんだよ」

 ジトがおかしいのは、前からだろう。しかし、リリにはそれがわからないらしい。


 ジトとリリが喧嘩していた城下町の道端に、白い服を着た剣士がやってきた。

「おい、ジトという小僧はおまえか」

 剣士が聞いた。

「ああ、おまえ、誰だ」

「人相書きからして、まちがいないようだな。死ね、小僧。おまえは知りすぎたんだよ」

 剣士がジトに切りかかった。ジトはリリを突き飛ばして、遠くに置いた。

「きゃあ、ジト、ひどい……のかな」

 リリが起き上がって見た二人は、すでに殺し合いを始めていた。

 剣士の剣が上段から落ちてくる。すっと、ぎりぎりで体をそらしてかわすジト。

「燃えさかれ」

 ジトの放った火炎で剣士の顔面が燃える。

「うおおお、この小僧」

 剣士が二太刀目、横になぎ払った。

「もう、遅えぜ」

 ジトの体は自動で物理攻撃から身を守る。すでに、防御の魔法をかけた後なのだ。

「お前の脳を見せてもらうぞ」

 ジトは軽く宙に浮き、剣士の頭を抱えるように移動した。

「ふん、ふん」

 剣士は剣をふるうが、空振りばかりだ。

「よし、脳のデータは読みとった。じゃあ、吹っ飛べ」

 剣士の上半身は、ジトから放たれた波動砲で消し飛んだ。

 剣士の下半身がゆらめいて、倒れる。

「嘘? ジトが勝ったの?」

 リリはその勝利を不思議そうに見ていた。


 それから、ジトは空中に浮かぶ青い文字に囲まれた。

「うわあ、ジト、ちゃんと魔法が使えるんだ」

 リリが驚きの声をあげる。

「ちょっと待ってろ。今、さっきのやつの頭の中を調べてるところだからな。ふんふん。どうやら、あの剣士、マジェインに命令されておれを襲いに来たようだな。人生は、くだらん。真面目に働いたエリート兵士のものでしかない。妻と子供がいるようだけど、知ったことか」

 リリは目をまるくしてジトを見た。

「ねえ、ジトって、成績悪かったじゃん。なのに、どうして」

「ああん。おれが成績悪いのは、マジェインを論破しようとする答案を書くからだ」

「信じられない」

 リリは目の前が逆転したように驚いていた。

「さてと、今の戦いをマジェインが見ていたようだ。次々と襲ってくるぞ。リリ、おまえ、自分の身が守れるか」

「ええ、わたし? そりゃ、わたしはマジェイン先生の優等生だもの。普通の一般人には負けないよ」

 それを聞いて、ジトは呆れた顔をした。

「おまえ、これから襲ってくるのが普通の一般人だと思ってるのか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る