色の世界

梨兎

第1話 色の世界

ある日さとしくんが真っ白な扉を開けると、色とりどりの扉がたくさん並んでいました。

 赤色、黄色、緑に青色、表現できない色がたくさんあります。

 さとしくんは赤色が好きなので、赤い扉を開けることにしました。

 かちゃり。

 扉を開けると、もわりと熱気がさとしくんの身体を包みました。扉の向こう側は、なんと砂漠が広がっていました。さとしくんは慌てて扉を閉めました。

「とけちゃう」

さとしくんは額を拭いました。

 さとしくんは赤い扉の右側にある青い扉に移動しました。

「暑くないかな」

 さとしくんは恐る恐る青い扉を開けました。

 扉を開けると、ひんやりと冷気がさとしくんの体を駆け抜けます。扉の向こう側は、なんと南極が広がっていました。さとしくんは慌てて扉を閉めました。

「こおっちゃう」

 さとしくんは自分を抱きしめました。

 さとしくんは青い扉から今度は黄色い扉に移動しました。

「寒くないかな」

 さとしくんは恐る恐る黄色い扉を開けました。

 扉を開けると、太陽がギラギラと辺りを照らし、セミの声が聞こえてきました。扉の向こう側は、なんとヒマワリ畑が広がっていました。さとしくんは大きなヒマワリに圧倒されました。

「きれい」

 さとしくんは開いた口がふさがりません。

 さとしくんは扉の向こう側に足を踏み入れることにしました。ざり、と乾いた土の音がしました。ガサガサと大きなヒマワリをかき分けて、さとしくんはヒマワリ畑を進んでいきます。ヒマワリには、アブラゼミがとまっていました。さとしくんは静かに近づいて手を伸ばします。しかし、じじじとアブラゼミは逃げてしまいました。さとしくんは残念そうにとぼとぼ歩きます。

ぴょこ、と何かがさとしくんの前に飛び出してきました。飛び出してきたのは、オンブバッタです。背中に子供を乗せています。さとしくんはなんとなく捕まえるのをやめて、オンブバッタの後を追いかけることにしました。

 夢中で追いかけていると、黄色い扉の前まで戻ってきました。

ぴょーんとオンブバッタは先ほどさとしくんが入ってきた黄色い扉に入り、消えてしまいました。さとしくんはオンブバッタと同じように黄色い扉に入り、扉を閉めました。

色とりどりの扉が並ぶ場所に戻ってきました。

「バッタさん、どこにいってしまったのかな」

 さとしくんは少しさびしくなりました。

 さとしくんは、次に水色の扉を開けました。

 扉を開けると、ざざーんと波の音が聞こえ、カモメが鳴いています。扉の向こう側は、海が広がっていました。さとしくんの瞳はキラキラと輝きました。迷うことなく、さとしくんは海へ向かって駆け出しました。ばしゃばしゃ、とさとしくんは海に入り、潜り、泳ぎ、魚や貝を見つけました。透き通った水の中は、どこまでも見える気がしました。

 さとしくんはたくさん遊び、疲れて砂浜で寝てしまいました。

 さとしくんが目を覚ましても、太陽は真上にありました。暑さと疲れで喉が渇いたさとしくんは、オレンジジュースが飲みたくなりました。すると、波に乗ってペットボトルが流れてきました。さとしくんが手にすると、そこにはオレンジジュースと書かれていました。さとしくんは喜んでごくごくとオレンジジュースを飲みました。

 ちょこちょことカニがどこかに向かって歩いています。カニの行く先には、水色の扉があります。さとしくんはカニの後を追いかけることにしました。

 カニと一緒に水色の扉に入ると、カニだけが消えてしまいました。

「どうして消えてしまうの?」

 さとしくんは不思議でしかたありません。

 さとしくんは水色の扉から、今度は緑色の扉を開けることにしました。

 扉を開けると、色々な種類の鳥の鳴き声が聞こえます。ちちち、ぴぴぴ、扉の向こう側は、森が広がっていました。足を踏み入れると空気がおいしく感じました。ぴろろろろと一羽の鳥が飛んできました。空のように青い鳥でした。とてもきれいだな、とさとしくんは思いました。

 青い鳥はさとしくんの周りを一周すると、道なき道を飛んでいきます。さとしくんは釣られるようについていきました。青い鳥が羽を休めたのは、湧き水がある大きな木の前でした。さとしくんは湧き水で喉を潤して、一休みすることにしました。

 一休みした後、青い鳥はぴろろろろと鳴きました。すると、もう一羽青い鳥が飛んできました。そして、仲良く二羽そろって緑色の扉へと入り、消えてしまいました。

「また消えた!」

さとしくんは目を丸くします。

次にさとしくんはむらさき色の扉に移動しました。

扉を開けると、一面むらさき色の花でうまっていました。どの花もきれいに咲いています。なんだかいい香りもしてきます。花びらが多い花やハートの形をした花びら、三角のような花びらをした花など、さとしくんの知らない花ばかり咲いています。

一面むらさき色の中に、机と椅子が置かれていました。近寄るとむらさき色に染まっています。机の上には、食べきれないほどのブドウが置いてありました。さとしくんは椅子に座り、ブドウに手を伸ばしました。

「おいしい」

さとしくんはたくさんたくさんブドウを食べました。

 お腹がはちきれそうになるほど食べたさとしくんは、少しだけ椅子で休むことにしました。すると、むらさき色をしたちょうちょが一匹、二匹、三匹とマジックのように次々現れたのです。さとしくんは近くにいたむらさき色のちょうちょを捕まえました。すると手がむらさき色に染まってしまいました。ごしごしと手をこすっても、むらさき色がとれません。

「どうしよう」

 さとしくんは困ってしまいました。

ひらりひらりと一匹のちょうちょがさとしくんの指先にとまりました。一休みしたちょうちょはさとしくんを手招きするように飛び始めました。くるりとさとしくんの周りを一周してみたり、他のちょうちょとは違う動きをしてみたり、さとしくんはその不思議なちょうちょを追いかけることにしました。

 追いかけているといつの間にかむらさき色の扉をくぐっていました。どこを見渡しても、もうちょうちょの姿はありません。手のひらを見ると、むらさき色は消え、肌色に戻っていました。

「どういうこと?」

 さとしくんは首を右に傾けます。

 さとしくんは次々扉を開けていくことにしました。

 きみどり色の扉、茶色い扉、クリーム色の扉、もも色の扉、だいだい色の扉、金色の扉、銀色の扉など、たくさんの扉を開けました。どの扉も愉快で、不思議な空間が広がっていました。

 そんな中に、見覚えのある扉を発見しました。その扉は、さとしくんが落書きした絵にそっくりでした。

「ぼくのえ?」

 さとしくんは首を左に傾けます。

 さとしくんは落書きされた扉を開けることにしました。

 かちゃり。

 扉の向こう側は、見慣れたリビングが広がっていました。見覚えのある机や椅子、おもちゃに窓から見える景色。

「ぼくのいえ?」

 さとしくんは首を右に傾けます。

 さとしくんがリビングに降り立つと、落書きされた扉が消えてしまいました。さとしくんは慌てて辺りを見渡します。しかし、扉はありません。

 さとしくんは家の扉を次々開けてみることにしました。けれど、どの扉を開けても、扉が並ぶ場所にたどり着きません。

「どうして?」

 さとしくんは焦りました。

 すると玄関から「ただいま」とお母さんの声が聞こえてきました。さとしくんは急いでお母さんのもとへかけより、「おかえり」と言いました。

 さとしくんは今まで体験したことをお母さんに話しました。すると、お母さんは「色の世界に行ってきたのね」と微笑みました。

「どうしたら、またいろのせかいにいけるの?」

 さとしくんはお母さんに聞きました。

「さとしが良い子にしていたら、また行けるよ」

 さとしくんは良い子にしていようと思いました。

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色の世界 梨兎 @nasiusagi

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