再会の果てに
ほしさきことね
第1話 プロローグ
何を着て行ったらいいのかしら?ヒロミは、鏡の前で色とりどりのスーツやワンピースを取り出してみては自分にあててみる。
高校を卒業してから、10年後の同窓会。皆、元気で過ごしているのだろうか。変わっていないだろうか。
結局は、淡いベージュのスーツに身を包んで目的地のホテルに向かって行った。
ある日、ポストを見たら一枚の往復葉書が入っていた。差出人はアキト。同窓会のお知らせだった。アキトといえば、高校時代は金髪で耳にピアスという、いわゆるチャラ男だったが女子には、不良っぽいイケメンで、モテていた。今は、ホストをしていると葉書には書いてあった。ヒロミは参加を迷ったがある思いから、出席するほうに○をつけて、往復葉書の片方を投函していた。
皆が10年ぶりに集まるところをミキも見てくれているだろうか?
ヒロミは会場となるホテルに足を急がせる。
***
「皆、来てくれてありがとう。担任の田中先生も来ているよ。今日は楽しもう」
口火を切ったのは、発起人のアキトだ。アキトはホストらしいスーツの着こなしに、話慣れしているらしく、流暢な司会ぶりで進行させていく。
「皆と逢うのは10年ぶりだけど、立派に成長したなあ。ミキもこの様子を見て喜んでいると思う」
次に挨拶した大柄な太った男性はクラス担任の田中だった。
ホテルは立食パーテイスタイルで、ヒロミの横にはレイカが立っていた。
「ミキはモデル志望だったから、あんなことさえなかったら今頃、業界のお話ができたかもしれないわ」
艶やかなパーテイドレスに身を包んだレイカが目に涙を溜めていた。レイカは、高校時代はその美貌により、マドンナ的存在だった。今は女優で、ドラマでも準主役級の活躍ぶりである。
「本当にそうね」
眼鏡をかけた地味な顔立ちの女性がこちらにやって来た。ノリコは静かで目立たない女性ではあったが、実直で成績もいいほうだった。今は、銀行で受付業務をしている。
「ねえ、レイカ。枕したら女優になれるの?私も紹介して」
この場にふさわしくない色気タップリなドレスに俗な話題でレイカの近くに来たのは、ミソノ。高校自体も男性にはだらしがなく、今はいろいろなところを転々として派遣をしていた。
ミキ。
高校三年生の修学旅行のとき、高い橋から川に飛び降りて自殺した。マドンナ的存在の女子で、レイカとは双璧と言われていた。レイカとミキは、波長が合うのか仲がよく、この二人が歩いていると誰もが振り返った。
ミキの死は自殺と判定されたが、謎が多かった。
***
「ミキが自殺とは思えないんだ。だって修学旅行の前日も元気でいろいろ話したし」
高級なスーツをさりげなく着こなした紳士、セイタもこの話題に加わってきた。セイタはT大を出て、霞が関で官僚をしている、エリートである。当然のことながら、甘いマスクに優しい性格でいつも女子の黄色い声を浴びていた。
田中先生と語り合っているのは、ジュンイチ。今はテニススクールのコーチをしている。セイタが勉学でモテていたなら、ジュンイチはスポーツで皆の注目を浴びていた。
ヒロミは皆の話を聞きながら、短い髪を耳にかけた。活発で元気であることだけがとりえのヒロミは、今は文化センターでエアロビのコーチをしている。
各々がそれぞれの道を行くなか、ミキだけは18才で時が止まったままだった。
「私ね、修学旅行から帰ってきたら、ミキと洋服を買いにいく約束をしていたの。そんなミキが自殺なんてするかしら」
レイカが不思議そうに首を傾げた。
真相はわからないまま、10年という歳月が流れた。
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