終焉に轟る鐘の音
despair
零
神が訪れた。
「世界は三時間で消滅の時を迎える。終焉の鐘が全てを導く」
神はそう人々に伝え、透き通るようにしてその姿を霧散させた。
残り三時間。最初は誰もがその言葉を信じなかった。然し直ぐそれを信じざるを得なくなる事態が発生した。
突然の地響き。突然の噴火が齎した物だ。活火山や海底火山はもとより死火山ですら活動を開始したようだ。至る所から爆発音が発生し、それに呼応するかのように大地が震える。
次の異変は水だ。波高が大きく流れの速い波が押し寄せ、人や物を赤子の手を捻るように飲み込み、そして押し流す。
最後の異変は月と太陽だった。両者が分裂し、急速に、急速に地球へ接近するのだ。
人々はその様子に慄き、戸惑い、焦燥し――。
この非常事態を回避して貰おうと、ある者去った神に祈りを捧げ、またある者はこれから消滅する世界と自身の命に落胆し、自暴自棄に陥る。どうする事も出来ず逃げ惑い、又はその場に立ち竦む者も居た――。
自らの今際を受け入れられぬ者は、皆様々な行動を取った。
だが現実は無情であり冷酷だ。
太陽が近付くにつれ、地表や大気中に存在した液体や水蒸気は蒸発し厚い雲となりその姿を維持する。それだけならまだ良いが、その雲が雨として降り注がれる事はないが為に人々が住んでいる域の温度は下がらず、段々と上昇していく。
それが原因で野外に居た者は次々に倒れる。日射病や熱中症と同じ類だ。
それだけではない。先程の火山の噴火によって火山周辺では溶岩流が発生し、噴石や火山灰と共に周囲を飲みこんでゆく。また降り注がれる火山灰により、火山雷も発生する、しかしそれが発生した所に人はほぼ居らず、ただその音を寂しく鳴らすのみだ――。
溶岩流により山沿いが。津波に似た波により沿岸部が。そして温室効果により平地が。着実に、着実に生きとし生けるもの達を死へと追いやっていった。
終焉まで一時間半。地表の温度は四十五セルシウス度を超える。
この頃になると、陸地や海面に変化が現れる。北極や南極の氷が大きく溶け始めた事による海面上昇だ。一時間半前と比べ、既に数メートル程の海面上昇を観測出来た。
陸地では大気に触れ温まった物が自然発火を起こし始め、ただでさえ減少している酸素を消費し始める。
この頃にはもう、全てを受け入れたのか一部を除いた人々や恒温生物は水を求めるように海や川を目指し、そして水に飲まれる。
雨も降らず、雲が増えるのみで大気中では暴走温室効果が発生する。
加速度的に気温が上昇するのだ。
終焉まで三十分。
もうこの頃になると、生物は屋外での行動が出来ず、また屋内に居てもエアコン等と言った物を使っても室内が温まるか外気が原因で爆発のみなので、屋外に居るのと何ら変わりない状態となる。即ち人体の蒸し焼きだ。
こんな状態では室内の者も生きていられる筈がなく大半が熱に苦しみ息絶えた。
終焉まで十分。太陽の姿は分厚い雲に遮られるが、光と熱は地表に居る人々だった物にも伝わる。
灼熱の陽に照らされ、その体は段々と蒸発する――。
終焉まで一分を切った。温度計ではもう測れない。太陽はオゾン層を突き破り、大気圏に片足を突っ込む。
突っ込むどころではない。もうその体の半分以上が収まったと言っても過言ではない。
反対に月もその体を地球にめり込ませる。
既に生物は死滅しただろう。だが月と太陽は蹂躙の手を休めない。
神の宣告したタイムリミットの三時間を迎える。同時に月と太陽は地表に衝突し大爆発を起こした。宇宙からは全てを祝福するかのように、「ゴーン、ゴーン」とそれは轟いた。
鐘の音が、轟いた。
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