カレテラ

清水はる

プロローグ


 学校帰りのいつものカフェも、夜に行くと雰囲気が違う。昼間は窓から差し込む太陽の光で目立たなかったオレンジ色の間接照明が、今は店の主役とばかりに、大人だけを歓迎しているみたいだ。それでも冷房も暖房も消してある店内は芳幸と藍の身体も心地よくほぐした。スーツを着た幾人かの大人たちは顔をほんのり赤らめながら、楽しそうに談笑していた。

 芳幸の母、智子が再婚してから一週間ほどがたち、身の回りも落ち着いてきたころだった。結婚を祝して三家族でご飯を食べに行こうということになった。昔からよく母と子だけで集まったりお泊まりしたりを繰り返しているので何も特別なことではないのだが、母親たちはいつもよりテンションは高めだ。芳幸と藍とは別のテーブルで雑談を始めた。

「芳幸、私ハンバーグ頼むけど、あんた何食べる?」

「俺もハンバーグ。今日あと来るの祥一だけ?」

「そうじゃない? 慧と優子ちゃんデートだもん。電話かけてやろうかな」

「ここでデートすればいいのに。にしても結構続くなぁ、二個上は。俺らはそんな話一切ないのにな」

「悲しくなるからやめて。それにあの二人は絶対妥協だわ、妥協」

 もともとは今高二の芳幸、祥一、藍つながりで仲良くなったのだが、芳幸の姉の優子と藍の兄である慧もちょうど同い年で、四年ほど前から付き合っている。

「いらっしゃいませ」

 チリンチリン、という音と一緒に祥一が入ってきた。この店には似合わない、汗でぬれた部活のウエアに、大きくて重そうなラケットバッグを背負っている。智子が「祥くん、こっちこっち」と手を振る。祥一は「智子おばさん、結婚おめでとう」と言って芳幸の隣に座った。

「ありがとう、部活お疲れさま。好きなもの頼んでね」

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