ラノベの主人公はなぜあまり新聞部には入らないのだろうか?

時野マモ

第1話 ラノベの主人公はなぜ高校デビューに失敗しがちなのだろうか?

 四月。始まりの季節。

 桜咲き、それにあわせたかのように大地が一斉に芽吹く頃。

 春。

 新しい命が、物事が、今年も、代わり、始まる。

 そんな頃。

 人も同じ。代わり、始まる。

 例えば、新しい学年が。学期が。

 気持ちも新たに。

 ましてや新入学となれば、初々しくも、大志に満ちて新天地へと歩み出すのだろう、

 ——この萩野学園。

 地域の俊英を一同に集め競い合わせ、文武両道の傑物を作り出す事を理念に掲げた名門ともなれば、この門をくぐる者、選ばれた者の相応の誇りと大志を持ち、さらに自らを高め、将来には社会の中に自らの名を成そうと思うものばかり。

 末は博士か大臣か、とかそんな時代ではないとは重々承知であるものの、それはこの時代でも自分だけはできるのではと。

 多かれ少なかれ、入学者の多くが、思う。

 そんな気風の者たちの中。

 堂々と。

 臆せずに、驕らずに。

 不遜なばかりの自信と、その裏腹の不安を持って、荘厳な造りの校舎を前に、

「がんばるぞ!」

 と心の中で叫ぶのは山屋敷青葉。

 故郷から生まれて初めて離れ、この学園へ人一倍の期待と志をもってやって来た。

 衆目期待すべき若者……


 ——なはずではあったが?

  

   *


 僕、山屋敷青葉は、教室の机につっぷして、昼休みの終わるのを、ただ、何もせずに待っているところだった。

 打ち拉がれて。気力を失い。机にプリントされた木目をじっと見つめるだけの休み時間。

 ああ、開幕早々ノックアウトくらったルーキー投手みたいな気分だった。

 なんか呆然として、次にどうすればよいか思いつかない、どうにも困った状態であった。

 あれほどの希望をもって学園の門をくぐったのがほんの二週間前なのに、今は回りの級友達の楽しげな会話を聞きながらも、その輪の中にも入れない。早く休み時間が終る事を願って、ただ寝たふりをして過ごす日々。

 思いっきり高校デビュー失敗であった。

 思わぬ事からたった悪評で、アンタッチャブルな男と思われて、やんわりとみんなから遠ざかられていた。

 想定外の事態だった。

 生まれてからずっと住んでいた山奥の故郷から出て、都会の学校にさえ行けばバラ色の高校生活とまでは行かなくても、普通の楽しい高校生活がついてくるのだと思っていた。

 しかし現実はと言えば……

 学校が始まって二週間。未だに帰宅部の自分。

 クラスでも微妙にぼっちの自分だった。

 いや、クラスの方は自分が本気で溶け込む気があれば何とかなるような気はする。

 結構良い人ぞろいそうなクラスメイト達は、結果的に僕をハブっているみたいにになっているのを気にかけているようで、時々いろいろな人が話しかけて来たりもする。

 そこで普通に接していれば、その内に僕もみんなの中に溶け込んで、友達もできてと思うのだが……

 大志のあっさり砕けた僕は、今はまだとてもそんな気持ちに慣れないでいるのだった。

 つまりちょっとそっとしといて欲しいと言う事であった。

 まったく、予想もしなかった展開だった、

 いや、大志と言っても、僕は、別にそれほど多くを望んでいたわけではないのだ。

 特に、学業は、自分がこの萩野学園のトップを狙えるような人材だなんて、まったくもて思ってはいなかった。

 自分の学業の才能は、この学園に来るような連中の中ならそこそこ程度だと思ってたし……実際そんなもんだった。

 入試の成績は、三百人中、百四十五位。

 ギリギリ真ん中よりは上と言う所だが、いやこの名門萩野学園に入っただけでも自分的には相当凄かったのだから、実は自分的には、この結果は、出来過ぎと言っても良い。

 故郷の田舎町から、この学園に入ったのなんてもう十年ぶりなんだから、それだけでも十分に名誉な事だった。

 その上、半分より上の成績で入学だなんて、自分的には小躍りしてしまいそうなくらいの結果なのであった。

 とは言っても、トップグループまでの間には、多分一朝一夕にはどうしようもならないような差がある事も、自分の実力と言うか才能では、それはたぶん越え難い高い壁があるんだろうと言う事も良く分かっていた。

 つまり分を知り、その中で自分として最大限に頑張ろうと——僕は十分に現実的な目標を持ってこの高校生活に望んだはずだったのだ。

 この面では高校生活はまったくもって想定通りだったのだった。

 しかし、いきなり自分の実力を思い知らされたのは——課外活動——部活の方だった。

 いや実は、そっちは結構自信があったのだった。

 子供の頃から野原をかけ回って鍛えた足腰。その体力だけでも都会の進学校に来るような人達の中では目立つ事ができるのでは……とか思っていたのだった。

 それに、そんな上手いわけではなかったが、故郷の学校ではレギュラーだった(部員が九人しかいなかったけど)野球。

 サッカーだって、やっぱりぎりぎり十一人しかいないサッカー部にけが人が出たときは助っ人で参加した事もあったし。

 この辺でなんか良い居場所が見つからないかと思っていたのだった。

 レギュラーなんかにならなくても良い。大活躍なんてできなくても良い。それでも自分の青春をかけたと実感できる場所が見つかるんじゃないかと漠然と思ってしまっていたのだった。

 それに、もしかして、やっぱり田舎のスポーツ部のレベルでは都会では通用しないのだとしても、文化系もある程度はできるつもりだった。

 例えば……

 音楽はそこそこできるつもりだった。

 小学校の低学年の時、担任の音楽の先生と仲良くなって教えてもらったピアノ。

 それは伴奏と簡単なメロディーが弾けるくらいの腕前しかなかったけど、軽音部なんかに入れば重宝されないかななんて思っていた。

 それとも文芸部なんてのも良いかなと思ってた。

 これでも読書量は結構多い方だった(ラノベが大半だけど)。

 そろそろ小説を書いてみたりして、仲間と批評し合ったり、本を作ってみたり。そんな事ができたりしないかなと思わないでもなかった。

 自分に小説書く才能なんてあるか分からないけど、みんなとわいわいやるだけでも楽しいのではないのかなって。

 とか、とか。

 ——入学前にはいろいろと楽しい学園生活、課外活動の事を、考えていたのだが。


 結局……


 次々に体験入部してみて、次々にやんわりと断られた。


「君はもっと相応しいクラブあると思うから……」


 どこでも、先輩たちは少し困ったような顔をしながら僕にそんな事を言う。

 いや、僕がすぐ戦力になると思っていたわけじゃない。

 高校の体育系クラブなんて中学校の経験者がそのまま続けるのが殆どだろう。そんな中にぽっと入って行っても大歓迎されるとは思ってはいなかった。

 経験があった——野球だって、中学校で経験あると言ったって、所詮田舎のレベルで、都会に出ても通用するなんて思っていたわけではない。

 でも。別に、球拾いでも、グランド整備でも、道具片付けでも良い。

 なんかそう言うのの中に。……いましかできないような青春の中に、僕は入りたかった。

 そう、そう言う、居場所が欲しかっただけなのだが。

 そんなささいな願いも今はまだ叶わず……


「おい、寝たふりはやめて、いい加減顔をあげろ。山屋敷青葉……いやサークルクラッシャー(物理)」


「ん……あっ」


 机から顔を起すと目の前にいたのは瑞鳳春香。僕と一緒に今日の日直当番になっているクラスメイトであった。

「えっ?」と間の抜けた声で答える僕

「まったく……」

 顔をあげた僕と目が合うと、無表情な瑞鳳春香は続けてまったく女子を感じさせない可愛げの無い口調で言う。

「日直は午後一の英語の授業の準備で早めに視聴覚室に行かなきゃいけないの忘れたのか。もう時間だ」

「いけね!」

 僕は立って、直ぐに視聴覚室に向かおうと歩き出すが、

「おい」

 瑞鳳春香は僕の制服の裾の辺りを掴んで引き止める。

「もう教室に戻って来る時間はないぞ。教科書とノートも持って行け」

「……あっ、はい」

 瑞鳳春香の指摘に、僕があわてて鞄から教科書とノートを出すが、それを確彼女は無表情で見つめながら、

「あせるな。お前持ってるのは数学の教科書だぞ」

「え? ……あれ」

 僕は手元を見て、——ありゃりゃ本当だ。

 うわ、恥ずかしい。

 なんて、と思いながら。

 さらにあせりながら。

 また、あわてて鞄をさぐり、今度こそ英語の教科書を出して……

「おい。まさかと思うが、筆記用具はポケットとかに入って……持ってるよな?」

 え?

 ご指摘に——ご名答——忘れてた——はっとした顔になる僕。

 それを見て、無表情のままあきれた顔になると言う高度な顔芸を見せる瑞鳳春香。

 僕はかなりのパニックになりながら、また鞄に手を突っ込んで……

 あれ、無い?

 でも午前の授業で使って……

 と焦れば焦るほど筆箱は見つからないがーー

 あれ、カバンの底にあるが。

 ん、中で引っかかって上手く取れないな。

 でも、このくらいなら無理矢理引っ張れば……

 と握る手に力をこめればーー


 バキッ!


   *


「まったく呆れた馬鹿力だな」

 理科室へ向かう廊下の途中、相変わらずの無表情で瑞鳳春香が言う。

 僕は砕けてぼろぼろになって、中の筆記用具が今にもこぼれ落ちてしまいそうな筆入れを注意深く掴みながら彼女の後ろを歩いて行く。

「流石に入学早々サークルクラッシャー(物理)と二つ名がついただけの事はある。それとも、入学早々、サークルクラッシャー( )だったか?」

「待て、その( )の中に何が入るのか教えてくれ」

「ふふふふ」

「おい、無表情のまま笑わないでくれ」

「——んっ?」

「『んっ?』って何だよ」

「おめでとう」

「何が『おめでとう』だよ」

「ご名答だ」

「だから何がだよ」

「( )の中には笑も入る」

「そんな無表情の笑いもか」

「もちろん、他に、蔑みの笑いも、呆れた笑いも……」

「なんかもう肯定的な笑いはないのか。和むとか、知的なウィットを感じるとか?」

「誰の? 何に?」

「誰が……って、僕の……行動に……」

「君がそんな評価を受けるような行いをしたと思ってるのかね?」

「それは……でも……少し位は……」

「ははは( )」

「おいおい、その( )の中には笑い以外が入っているんだよな。お前、俺に笑い以上に何を思った」

「何? 聞きたいかい? 少なくとも(愛)とかじゃないぞ」

「そんな事思ってる分けないだろ!」

「そうか? 私は結構美少女だぞ。誰も話しかけてくれない君がちょっと話されたくらいで勘違いしても私は責めないぞ」

「誰が!」

 つい大声になる僕。

「『誰が?』 君意外の誰が?」

「だから……」

 ——はあ……

 僕はこれ以上続けてもずれ続けそうな会話にため息をつく。 

 ああ、瑞鳳春香、こいつが本当に美少女なのが腹が立つ。

 人形のような綺麗で整った顔立ちににキラキラと輝くショートカットの髪。少し痩せぎすかと思えば、着やせするようで、ふと体をねじった時に見せる艶かしい曲線。

 街中をあるけばしょっっちゅう振り向かれてもおかしくはない美少女ぶりだった。

 しかし、こいつは入学早々僕と同じアンタッチャブルに指定されてしまった残念美少女なのだ。

 その理由は、もちろん、いままでの会話で察してもらえるかかもしれないが、この徹底的に人と噛み合ない会話と態度にある。

 なので、

「もう、( )の話は良いよ。もう(笑)で良いよ。それ以上考えない事にする」とこれ以上の相互理解はあきらめて僕は言うと、

「そうか。私もそれが良いと思うよ。(笑)と思ってた方が」と瑞鳳春香。

 それを聞いて、

「なんで?」

 思わず声に出る僕。

「なぜかって……?」

 それも知らないのかとでも言いたげな無表情な表情をしながら瑞鳳春香。

 頷く僕。

「笑いならまだいいんじゃないか……(恐)とか入るより」

「……うっ」

 僕は、瑞鳳春香の言葉に、思わずうつむいてしまう。

 言う通りだった。

 笑いのネタにしてもらった方が、あのびっくりされて、かなりひかれた目で見られるよりも。

 あの時、次々に各部活からお断りされていたあの時、( )に入っていたのは決して笑いなんかではなかった。

 何しろ、

「いったいどうやったら金属バットを割ったりできるんだい」

「うっ、もうそこまで……」

 瑞鳳春香は僕の行った所業について、すでに詳しく聞き及んでいるらしかった。

 もちろん、クラスのみんなも僕のやった事の噂は聞いていて、だから入学早々に僕はアンタッチャブルになってしまっているのだけど、

「そんな事やらかしたら噂になるのもあたりまえだろ」

 もう少しぼやっとした噂になってるのかと願っていたのだが……

「あれはバットが古くて劣化してたんで……」

 どうもかなり具体的に瑞鳳春香は知っている様だった。

「——三本も続けて? 野球部も随分良いもの使ってるみたいだね」

「たまたまかな。たまたまだよ……たぶん」

「ふうん……」

 あっ、この目つきはその先ももっと知ってるって言う目つきだな。

 やっぱり無表情なのになぜか的確に表現される瑞鳳春香の感情表現に追いつめられる僕。

「……守備でボールを追ってぶつかったバックネットを突き破ったのもたまたまなのか」

「うっ……金網が劣化してて」

「また劣化か、ふふふふ……この学校はだいぶ老朽化しているようだ。私は入る学校間違えたかな、ふふふ」

 だから怖いから無表情で笑わないでくれと思いながら、

「……つい一生懸命やりすぎたからだし」と僕。

「一生懸命やっても……打ったボールは後ろにしか飛んで行かない。バックネットを突き破ってまで追いかけたボールはこぼす。本当に中学で野球やってたのかい」

 なんでお前そんな詳しいんだ。そこまで詳しく伝わっている噂になってるのか?

 僕は少し驚き目を見開いてしまう。

 こういうのは、尾ひれはひれつく事はあっても、詳細については、やったままに伝わらず、なんかもっと適当な要点だけで伝わってもっとぼんやりとした話になってしまうものだが……

 瑞鳳春香はまるで見て来たかのように僕の行動を知っている。

 まるで僕の行動を逐一チェックしていたかのような……

 これってもしかして……?

 と僕の考えている事を察したか、

「ああ、私がずいぶん細かく君の事を知っているのを誤解しないでくれよ。君に特別な感情を持ってるとかでは全然ないのだから。さっき(愛)とか言ったのもまったくフリとかでないから」

 と瑞鳳春香。

「せっかくの美少女とのフラグと思って喜んでしまっていたら申し訳なかったが……ごめんなさいだ」

「はあ?」

 ぽかんとした口調で僕。

 かってに僕の恋愛感情をでっち上げて、それを勝手に叩き潰す。

 本人はそれをなんの疑問もなく行ってるようだが、振り回されるこっちはえらい迷惑で……

 ——でも、ほっとしたよ。

 さすがに恋愛感情とまでは思ってなかったが、クラスのぼっち二人の片方のこいつに好意持たれてつるんだら僕のボッチは今後もさらに確定的になってしまいそうだからだ。

 ボッチ二人がつるんでいたら、気の良いクラスメイトのみんなも安心して僕ら二人だけにして放っておきそうだし、そしたら何となく僕らは本当に仲良いペアと思われてしまいそうだし、そしたらもしかしたら僕は本気で好意を持ってしまって……

「んっ?」

 僕の考えを読んだかのような少しゲスい無表情を浮かべる瑞鳳春香。

 違う違う。少しそうなる可能性を考えてしまった事は否定しないが、——まあありえない。

 こいつに少なくとも悪意は無いが、今の騒ぎの心の整理がついたなら、どこか入れてくれる部活をなんとか見つけて、そしてクラスのみんなと触れ合って普通の高校生活をできるようにと僕は思っているんだ。

 こいつとは、あまり親密にならずに適度に接しておこう。

 こいつだって僕とつるんでボッチというか二人ボッチ状態になるのは嫌だと思うから、それが最良の選択なんだ。

 と思うが……

 しかし、僕に好意と言うわけでないのなら、なんで瑞鳳春香はこんなに僕の行動に詳しいんだ?

 そう考えた僕の様子をまた察してか(しかしこいつ自分の感情は出さない割に人の事察するの鋭いな)、 

「私が詳しいのは商売柄ね」と瑞鳳春香。

 商売?

 なんだそれ。

 しかし、僕の疑問の、表情を今度は無視をして瑞鳳春香は言う。

「でも……君に特別な感情は持ってないにしても——興味深いとは思ってるよ。……他もいろいろ聞いてるよ。サッカー部では、ゴールポスト蹴って曲げてしまったんだっけ。ボールを蹴って破らなかっただけまだましだが。ボールには一切、触れれなかったんだから当たり前か。ふふふふ」

 うわ。こいつそこまで知ってるんだ。

 情報入手経路はよく分らないが、こんな事が本当に噂で広まったら僕を受け入れてくれる部活はますますなってしまう。

 スポーツのセンスは無いのに、馬鹿力の、サークルクラッシャー(物理)……

「噂を聞きつけたテニス部は君にボールは打たせなかったみたいだが、それでも素振りでラケットが折れるって、どんな超能力だい」

 あれは、噂を聞きつけて、壊れても良い様に古いラケット渡されたから、全力で降ったら壊れてしまった。

 ——それこそ本気で劣化してたんだと……

 思うが……

 多分そうだよな……

 ならいいな……

「で、それまでの評判のせいで、バレー部とバスケット部は何もしないうちにやんわりと断られ、——まあこの二つはこの学校にしては割と強いからね。中学で経験者じゃない奴はお呼びじゃないって言う高慢ちきなとこだから、——しょうがないとして、陸上部での話は聞いて笑ったね」

 うっ!

 それも知ってるのか。

「陸上部で壊すものなんてあるのかと思ったら結構あるんだね。百メートル走でスターティングブロックを踏み壊した。棒高跳びの棒を折った。走り幅跳びで踏み切り板を割った……この学校の物は何でもかんでも劣化しているらしい。こまったもんだね。ふふふふ」

 全然困ってなっそうな、と言うか相変わらず何にも感情がなさそうな表情の瑞鳳春香。

 僕は、この調子だとこいつはもっと知っているなと更に身構えるが……

「……で君はスポーツ部に見切りをつけて、と言うか見切られて文化部に行くわけだが」

 ああ、やっぱりその話も知っているのか。

「理科部でも大暴れだったようだね。君のフラスコだけ大爆発だったそうだが」

 ……どうも僕は酸とナトリウムを間違ったらしく、それで爆発が起きたと言う事のようだった。

 それで、偶然誰も怪我がなかったから良かったものの、二度と来るなと先輩にマジ切れされて僕は追い出されたのだった。

 いや、ちゃんと確かめないで実験した僕も悪いが、初心者の近くにそんな間違うと危ないもの置いとく方も悪いだろと僕は言いたかった。

 でも、爆発の騒ぎの当事者がで、そんな事が言えるわけも無く、僕は平謝りで理科部を後にする。

 と文科系の部活も出だしで味噌が着き始めたのだが、

「でつぎは調理部。そんな女だらけの部になぜ君が行こうとしたか知らないが……」

 いや、さすがにそこは自分の意思で言ったのでなく調理室の前を歩いていたら、「そこの男子、試食だけでも」って引きずり込まれて、ついでに体験調理をする事になって……

「——また爆発って。君はできの悪いハリウッド映画かい」

 言われた通りにしただけのつもりだったのだ。

 でもなぜか僕だけに悲劇が連続した。

 油の中に入れたコロッケが軽く爆発したときはまあ、まだ調理部のお姉さま方はみんな暖かく見守ってくれたのだが……

「……電子レンジに卵いれて爆発させる。慌てて取り出そうとして扉を勢い良く開け過ぎてレンジを壊す。タラコの素揚げと言う独創的な料理を作ろうとして、飛び散らせた油に引火して、消化器を持って来るようなぼや騒ぎになる……」

 いや、料理なんて殆どした事がないのに、勝手に自分流アレンジをしようとしてめちゃくちゃにしてしまった事は反省している。

 台無しになった新入生の体験入部会。

 怒るのならまだ良かったが、ひどく落ち込んだ先輩女子たちの悲しい視線に耐えられず、僕は土下座をしてその場から去るのだが、

「次は文芸部だっけ。まさかここでもね——」

 ああ、爆発しました。

 なんで本しかないあそこがとみんな思うのだろうが、

 ——これは流石に運が悪いとしか言いようが無い。

 代々の先輩の残して行った蔵書を見せてもらっている時、家で親が持ってた古いSF本があったので懐かしく思い取り出そうとしたのだが、強く押し込まれてある本は取り出しにくい。

 どうやってそこまで詰め込んだのか分からないが、取り出そうにも指も入らない程ぎっちりと棚に入っていた本の中から目的の本を抜き出そうと、僕が無理矢理取り出そうとしたら、固定されていない本棚が倒れ、追わせて周りにうずたかく摘まれていた本の山も崩れ、そこにたまってたほこりや紙の切れ端が宙を舞い……

 バン!

 粉じん爆発と言う奴だった。

 文芸部室に充満した粉じん状のほこりが、たまたま見学者用にお茶でも出そうと電気湯沸かし器をコンセントに差し込んだときの火花で引火して、大爆発してしまったのだった。

「まあ、けが人も出ないし火事にもならなくて不幸中の幸いだったね」

 瑞鳳春香は僕をなぐさめている風に見せたいのか、少しうつむいて、伏せ目がちとなるが、

「ふふふふふ……」

 あ。やっぱりこいつ、僕の事なんて何にも可哀想に思ってないぞ。笑いに耐えていただけだ。

 でも、笑うのを申し訳ないと思ってただけましか。僕に申し訳ないではなく、爆発を笑っうのが不謹慎だと思っているだけだろうけど。

 それでも、まあ、なんとか笑いをこらえると、

「で、最後は軽音部だな。ここはさすがに爆発しなかったようだが……」と次の僕の恥部を話し始める。

 うわっ!

 ああ、これが実は思い出すと一番きつい。

 と言うか聞きたくない。

 僕は頭を抱え、言わないで、と目で訴えかけるが、

「ふふふふふ……」

 こいつにいまさらそんあ慈悲があるわけもなく、

「軽音部の連中は、最初は結構歓迎してくれたそうじゃないか。まああの連中は自分たちはロックだ、パンクだ、反抗者だと思ってる青二才共だからな。色々壊しまくってやってきた暴れ者の君が来ると言うので盛り上がっていたんだろう。でも……」

 ああ!

「好きな曲をと言われて君が弾いてみたのが……」

 そう。

 ——メリーさんの羊はマズかった。

 田舎の先生に教えて貰った曲は、童謡とかそう言うのしかなくって。

 良く考えたら僕ってロックとかそういうの聞くわけでもなく。

 しーんとしてしまった軽音部の雰囲気に耐えきれずに部屋から逃げ出して……

「ふふふふふぃ……ひィ——」

「——なんだよ最後の『ひィ』ってのは」

「ひぃひ……悪い悪い、私とした事が。——つい思い出し笑いでツボに入ってしまった」

 まあ相変わらずの無表情なんだが、こいつ的には相当の受けてる状態なんだろう。

 腹をかかえながら。

 まったくこっちは笑い事じゃないんだが。

 高校生活最初のつま付き。

 高校デビュー失敗にも程がある悪評の連続。

 この後、いったいどうしたら僕の高校生活は元に思っていた理想の状態に戻るのだろうか……

 と思うが、

「まあ、でも悲観するな君、山屋敷青葉。君が派手に悪評をたてまくった事も悪い話ばかりじゃないぞ」

「何がだよ」

 そんなものあるわけがあるか。

 どうせこいつは僕を何かひっかけようとしてるんだろうと、僕は疑いの目で瑞鳳春香を見るが、

「ああ、本当だぞ、山屋敷青葉。君は派手に目立ったおかげである人が君に興味を持った」

「ある人?」

「そう、ある人。素晴らしい人だ。あって一週間足らずだが、もう私は人生の師としておしたい申し上げている」

 おまえが「おしたい』なんて逆にうさんくさいんだよ。

 と思いながらも、

「誰なんだよ、そんな人」

 こいつが慕うなんていったいどんな怪人だと、実は少しななめ下方向にだが興味を惹かれながら言うと、

「松島美風さん。そう私の所属する部活の部長だ」と瑞鳳春香。

「部活? お前何入ってるの?」と僕はこいつが何か部活に入っていたのにびっくりして言う。

 すると、瑞鳳春香は、僕の質問に首肯して、そして無表情なりに少し真面目そうな顔つきになると、

「私が入っている部活は新聞部だ。そして君に興味を持った部長の松島美風さんから私はこう言付けられているんだよ……」

 言いつけられている?

 僕に対して?

 それって、もしかして?


『山屋敷青葉君。ぜひ、我が新聞部に入ってくれませんか』

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