剣聖伝
印度林檎之介
無敵一刀流
無敵一刀流
山道を一人の老人が歩いている。
男性である。
腰もまがらず、杖もついていない。
だが、顔に深いシワがきざまれ、七十をだいぶ越しているようだ。
頭は白髪の総髪、着物は筒袖に袴、見るからに引退した武芸者といったところだが、腰には刀ではなく木刀を差している。
老人は歩きにくい坂道をまるで平地のようになんなく歩いていたが、突然立ち止まった。
かすかに、悲鳴が聞こえたからだ。若い女のようだ。
老人は悲鳴がした方向に走りだした。
早い、まるで風のようだ。
悲鳴の場所は向こうの木立の先のようだ。
……かすかに血の臭いがする。
それと同時に、風に途切れ途切れに、壮年の男の声が聞こえる。
「…朱印状…わた…命…」
老人が木立を突き抜けると、
旅姿の娘が一人、それを取り囲んで抜刀した覆面姿の男が四人、地面には男が二人切られて横たわっている。
倒れているのは、二人とも侍。旅装姿で見たところ娘の供らしいが……これも抜刀して死んでいる。
二人とも即死のようだ。
つまり、この四人、目的の為には手段を選ばぬ輩……と言う事か。
老人は走りながら叫んだ。
「やめい!!」
老人の声がひびきわたる。
四人の剣士がふいをつかれてあっけに取られた瞬間、老人は剣士のかこみの中に飛び込んで娘を抱き抱えて走り抜けた。
剣士達は驚いていたのもつかの間、追いかけてくる。
老人は立ち止まると、娘を背後にかばい木刀を抜いた。
剣士達が追いついて老人を取り囲もうとする、その前に
「……やるかね?」
老人はつぶやくと先に動いた。
信じられない速さである。
たちまち、先頭の剣士に近づくと木刀で横一閃、すさまじい音で風を切る。
『ぶぉんっ、シュン!』
剣士は腰を両断され真っ二つになった!!
ここで剣士達の動きが止まる。
老人が手にしているのは木刀だ。
……なぜ、人が真っ二つになるのだ?
混乱しているうちに、老人は次に近い男を縦一閃、またもすさまじい音だ。
『ぶぉぉんっ、シューン!!』
こんどは縦に真っ二つ。
唐竹割りだ。
「まだ、やるかね?」
老人が問う前に残る二人はすでに戦意を喪失していた。
老人が木刀で苦もなく人を切る事ができるのも信じられなかったが、何よりすさまじい気迫に射すくめられたのである。
老人が軽く一歩、足を踏み出した。
「うわわわッー!」
二人はあとずさると、踵をかえして逃げ出した。
老人は振り返ると、後ろの木立に向かって言った。
「そこの御仁。手下は逃げてしまったぞ。どうするね?」
木立から現われたのは大柄な武士だった。
やはり覆面をしている。
武士はゆっくりと抜刀すると、老人と対峙した。
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