読書感想文『リビルドワールドVI(上下)』感想(超ネタバレ)

 六巻上を読んだ小生の感想。


『あ、これやるな』


 六巻下を読んだ小生の感想。


『作者てめぇ! やりやがったなぁ!』


 いや、やるとは思ってましたけど、『虚淵玄』氏を想わせるような展開にはさすがの小生も精神的ダメージを受けました。久しぶりに正しい『死亡フラグ』の使い方を見せられた気分でふ(汗)


 ただこれは『正しい結末』なんですよね。

 なるべくしてなってしまった一つの終わり。


 誰が悪いわけでもなく。

 ただ各自の『望み』が辿り着いてしまった場所。


 つまりは『望みの果て』というわけです。

 この下巻のサブタイトルは素晴らしいですね。


 今回の結末は『読者視点』から見れば回避する方法が幾つもありました。

 でも、それができないのが『リビルドワールド』という物語なのです。


『リビルドワールド』という物語は『弱者と強者』そして『選択』の物語です。

 

『強者』は様々な者たちを利用しながら自分の望みを叶えようと暗躍します。

『弱者』はそんな強者に利用されながらも自分の望みを叶えようと足掻きます。


 そして、彼ら/彼女らは自分の望みを叶えるために『選択』をします。


『何を切り捨てるのか?』


 ということを。

 この物語の中で主人公である『アキラ』は『切り捨てられる者』です。


『アキラ』は様々な人間たちから『選ばれなかった人間』として描かれています

『善意』だけで彼に手を差し伸べる人間はこの世界には存在しません。


 彼もそれが分かっているからこそ信用しない。

 他者の判断に自分の命を預けることを嫌がるわけです。 


 そして、アキラの考えはけっしては間違ってはいません。

 大勢の人間にとって『アキラの命の価値』など大したことが無いからです。

 

 だからこそ『アキラ』はあの局面で『ユミナ』に選ばれませんでした。

 それが彼女にとって確実に己の望みを叶える方法だったからです。


『ユミナ』にとって『アキラの命』とはその程度の価値だったわけです。 

 自分の望みを叶えるためには『切り捨てられる命』だったのです。 


 そして、『アキラ』もまたそれは『同じ』でした。

 彼にとって『ユミナの命』は『自分の命』よりも大切では無かったのです。


 だからこそお互いに殺し合うしかなかった。

 お互いに『確実に自分の望みが叶う方法』を選んでしまったわけです。


『信用して協力すれば他の道があった』ことは作中でも示唆されています。 

 でも、信用して裏切られれば自分の一番大切なものを失ってしまう。


 彼らにはそのリスクを許容する強さはありませんでした。

 アキラも、ユミナも、カツヤも。


 この物語では利用されるだけの『弱者』でしかないからです。

『強者の望みの犠牲』になるだけの『命』でしかないわけです。


 アキラが常に報復を考えているのもそれが『理由』です。『自分に手を出せば被害が出る』と相手が理解してない限り、彼は常に命の危険に晒される『弱者』に過ぎないのです。隙を見せれば利用され、使い捨てられるだけの命なのです。


 先ほども言いましたが、今回の物語で誰が悪かったということはありません。

 ただ全員が己の望みのために戦い、己の望みのために切り捨てただけです。


 アキラたちを追い詰めたのは『強者の望み』でしたが、それでも最後に『自分たちの望み』を選んだのは彼ら自身なのです。


 その中で『ブレード』で戦うことだけが、彼らに許された唯一の妥協だったわけです。理不尽ですがどうしようもありません。


『選んでしまった』のだから。

『選ばれなかった』のだから。


 そして、彼らはそれを覆すことができない『弱者』だった。

 それだけの話。それだけの『結末』なのです。


 そして、『勝ち残った強者』だけが大きな利益を得る。

 今回の場合は『アルファ』もその一人でしょう。


 もちろん『アキラ』の一番の望みである『生き残る』ことはできました。でも、それ以外の望みを叶えられる立場にいないのが今の『アキラ』の限界でもあります。


 もっと多くの望みを叶えたいならば、彼自身が『強者の立場』になるしかありません。この世界の表舞台で繰り広げられている戦いに参戦できるほどの『力』を得るしかないわけです。


(ちなみにその力を求めたのが『カツヤ』であり)

(彼の存在は高望みし過ぎた場合の『アキラ』と考えることもできます)


 そのための一番の近道は『アルファ』と完全に力を合わせることなのですが、彼女もまたアキラのことを『信用』していないので、その道も遠いわけです。


 まあ、アルファ目線で言えば彼女自身もかつて『裏切られた側』のようですし、人間を信用しないという意味では当然の対応だったりするわけですけど(汗)


 なんにせよ。

『物語』は次の舞台に移っていきます。

 

 リビルドワールドという物語自体ここからが『本番』という感じでもありますし、次回も期待大ですね。


 それにしても、書籍版もWEB版とは違った面白さが出せる作品に仕上がってきましたね。単純に物語として面白いのは『WEB版』ですが、テーマ性が良く書けているのが『書籍版』なので、この当たりは好みの問題でしょう。


 主人公を主体としたスピード感のあるWEB版。

 戦闘のスケールをアップさせ、作品の掘り下げを深めた書籍版。


 関係性としてはこんな感じですね。個人的にはWEB版を読んでから、書籍版を読むとより『リビルドワールド』という物語が楽しめるかなーと思います。


 ただシンプルな構成の分だけ『物語の完成度が高いのはWEB版』ですね。

 書籍版は情報が増えてる分だけキャラの扱いとかが難しくなってますし。


『ユミナ』が目立った分だけ『レイナ』とか『トガミ』の印象が薄くなってますし。

 この辺りは書籍版で追加エピソード増やさないと更に存在感が無くなりそうです。


 後はWEB版で好きだったシーンとかセリフもけっこうカットされてるので、この辺りは気になる箇所ではありますね。物語の構成上入れるのが難しいのは分かるんですけどねー。この辺りは以前から一長一短になってしまっている感じです。


 でも、書籍版はWEB版とは違う面白さが表現できているので、次回も購入する予定です。戦闘シーンもWEB版よりも派手になってますし。漫画版を描く人が大変そうですけどどど(汗)


<完>

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