FGO『人智統合真国シン』 感想(ネタバレ)

『恒久平和』


 それはかつて『民』と呼ばれた人々の願い。

『今日に続く明日が欲しい』と彼らは王に願った。


 それゆえに『王』は『それ以外の全て』を背負った。


 人の知恵を奪った。

 人の力を隠した。

 人の罪を返した。


 人の不幸も、人の幸福も、その全てを『平和』という言葉に代えた。

 世界を自分が背負える形に整え、『王』は『恒久平和』という夢を勝ち取った。


 そして、世界から『人』は消え去り、管理者としての『王』だけが残された。


 それでもいいのだと。

 血塗れの英雄たちは思った。


 それが『民』が望んだことだと。

 それが『王』が成しえたこだと。


『平和』というモノにはそれだけの価値があるのだと。

 彼らは知っていたのだから。


 だが、どれだけ『平和』が維持できたとしても。

 そこに『血が流れない』ということはありえない。


 犠牲者は常にいる。


『平和』だからこそ殺されなければならない。

『平穏』だからこそ弾圧されなければならない。


 なぜならば、『人』はそういうものではないからだ。

 どれだけ偉大な王でも『人』の本質までは奪えなかった。


 人が背負った『原罪』は一人の王が背負えるほど軽くは無い。

 物事には代償が必要だ。限界を超えた奇跡にはそれ相応の報いが訪れる。


 王は民に『平和』を与える代わりに、未来への『可能性』を奪った。

 その『罪』は結果として、世界そのものを滅ぼす。


 時は流れ。

 滅びた世界で『王』は最後の夢を見る。


『王』は一人の『人民』に自分が奪った『可能性』の先を知る。

 自分一人が世界を背負わなかった『世界の希望』を。


 自分の世界が間違っていたわけではない。

 それでもまだ『可能性が続いている世界』があるならば先を託そう。


 それが世界を背負い続けた一人の『王』の決断。


 戦うことを選ばなかった在り方の終焉。

 例え終わりを迎えたとしても、安らかに眠る民が暮らす世界。


 ハッピーエンドも、バットエンドも存在しない。

 民のためだけの理想郷。幻想の楽園。

 

 例え歴史に残らぬとしても、その在り方は彼らに伝わった。

 その出会いがきっと新しい未来を切り開く力となるだろう。

  

――――


 せーの。

 作品の難易度上げ過ぎじゃ『虚淵玄』!


 上のテーマは『世界の在り方』を元に書いた文章ですが、それとは別に『人外』というキーワードもあります。『項羽』と『虞美人』辺りの話はそっち側ですが、まとめ切れないのでカット。こっちの方でフォローしましょう。


 まずプレイヤーの中にはこの世界を『否定』できないという方も多いようですが、『型月世界』的に明らかに『失敗した世界』です。むしろ今まで出てきた『三つの世界』の中で一番『人類』的にやっちゃった世界と言えるでしょう。


 別に『平和』を否定するわけではありませんが、『平和』になる段階が早過ぎた。

『始皇帝』程度の存在では『人類の代表』あるいは『星の代表』にはなれません。

 

 前の二つは『災厄』や『災害』によって『人の可能性が潰えた世界』ですが、今回は『一人の王』によって『人の可能性が終わった世界』です。


 実際のところ『始皇帝』がやったことは『凡人類史』で『項羽』がやったことと同じです。完璧に治められる範囲まで『世界を縮小させてしまった』のがこの『人智統合真国シン』です。


 もしも『始皇帝』という存在がもっと偉大かつ強靭だったのならば、おそらくこの世界が『凡人類史』となっていたかもしれません。


 でも、そうはならなかった。

 彼は民の平和に世界の『リソース』をほとんど使ってしまった。


『平穏に死ぬための世界』


 それが間違っているとは言えない。

 でも、少なくとも人類の『リソース』はそんな世界を許すほどの余裕が無かった。


『滅び』が蔓延る世界で、終わりすらも受け入れ『平穏に死ぬための世界』というのは『贅沢』なのです。(おそらくこの世界も長くは続かず滅びると推測できます)


 一つでも多く滅びに抗うための旅路。

 そのために別れた無数の平行世界。

 

 いつから世界がそうなったのかは分かりませんが、それが人の世界の仕組みになっています。(おそらく神代にはこのシステムは無かったものと推測できでき)


『可能性』も『分岐』も潰えて、その世界の人間だけが平和に暮らせる世界。

 少数の犠牲だけで平和が維持できるシステム。


(『秦良玉』の言い分とは違い、確実に今も犠牲者が出ています)

(『スパルタクス』が立ち上がったのも平和の中に潜む『圧制』に気付いたから)


(例え少数でも圧制を受けている者がいるならば『スパルタクス』は反逆します)

(この辺りは『アタランテ(オルタ)』のときのやつと同じです)


 それだけでは世界を存続させる理由にはなりませんでした。

 

 そのうえ『人間の可能性(善悪)』から生まれた『英霊』たちにすれば、『人間の可能性を殺している』世界に同意することも難しく、『荊軻』からすれば『人から生きることを奪った始皇帝』の罪は万死に値するものだったのでしょう。


 もっともその『始皇帝』も『英霊』たちの生き方に大きな影響を与えられていきます。その切欠となったのが『スパルタクス』の命を懸けた反逆だったのでしょう。


『始皇帝』からすればそれは有り得ない光景でした。

 ですが、それができるのが『凡人類史』の『英霊』という存在。


 それを見た瞬間、『始皇帝』にも『人の可能性』が見えてしまった。更に『荊軻』との会話の中で自分が理解できない『未知の可能性』を知ってしまった。


 ゆえに彼は見極めなければならなかったのです。


 人類を背負えるのは一人の『王』か無数の『人民』か。

 

 その果てに彼は道を譲ります。

 

 自分たちはこれでいいのだと。

 ここで終わっても人の未来は続くのだと。


 これが『始皇帝』側の物語です。


 だが、それでも平和を守るために抗おうとする者がいた。

 それが『項羽』です。


 彼にとって欲するのは人類の未来などではなく、今の平和だけです。

 それを乱す存在は誰であっても許せない。


 この物語の中でもっとも『平和』を求めていたのが『項羽』でした。


 それはけっして命令などではなく、彼自身の『願い』だったのでしょう。

 だからこそ彼は『英霊』となります。人々の平和を守るために。


 もっともその『英霊』も普通の形ではないみたいですけど。


 それが『虞美人』の物語。

 

 彼女の場合はまったく人類の未来なんて考えてません。

 まあ、『真祖』ですから。びっくりしましたけど『真祖』ですから(二度)


『真祖』というのは簡単に言えば『星が生んだ生命体』みたいなものです。

 世界によって意味合いが変わりますが、FGOではあんまり関係ないでしょう。


『プライミッツ・マーダー』も大きく分類すれば『星の生命体』です。基本的には星を崩壊させないためのシステムですが、あんまり上手く作動はしてません。


 まあ、それもあって『虞美人』は『項羽』との再会が目的だったみたいです。でも、その正体が知られていなかったため『凡人類史』には『英霊』としての『項羽』は存在しなかった(たぶん)


 おそらくそういう理由もあって、第一部の間は『死んだ振り』をしていたと推測できます。人類の未来には興味が無いので平穏に暮らせれば別にあの中でも良かったのでしょう。


 で、いろいろあって、『別人の項羽』と再会して、それでまたいろいろあって『英霊としての項羽(凡人類史)』が誕生しそうなので、星側から人類側に寝返ったというお話(略)


(召還されたせりふなどを考えると『項羽』の中身は『凡人類史』です)

(つまり、本当の再会ができたわけです)


 明らかに今回の勝利者は彼女です。

 叶わないはずの自分の望みが叶った。


 今回、『マスター』の影が薄いのも今回の主人公が彼女だからです。

 遠い旅路の果てに願いが叶った。


 それもまた『生命の持つ可能性の一つ』ということでしょう。

 未来は誰にも分からないわけですヨ。


 そんなわけで『虚淵玄』氏のシナリオでしたが、駄目なところもけっこうあります。面倒になってきたので簡単に書くと『活躍する人物と活躍しない人物の差が激しい』こと。まあ、はっきり言えば『モードレッド』『赤兎馬』『陳宮』の三人です。

 

 いや、戦力としては活躍してたんですけど、目立つシーンがあまり無かった。

 存在感としては『コヤンスカヤ』の方が味方としても目立ってましたし。


 『赤兎馬』『陳宮』に関してはそもそもあの状態で呼べるサーヴァントが彼らぐらい弱くないと呼べないという事情があったので仕方がありませんが(呼べるなら『呂布奉先』とか『諸葛孔明』を召還したかと)、『モードレッド』が反逆三銃士の中で一人だけ地味だった。


『スパルタクス』とか『荊軻』みたいなシーンがあると思ったらぜんぜん無かった悲しみ。いや、まあ、別の物語で主役級の役割をやってますし、比較的メインストーリーでも出番が多いので仕方がありませんががが。


 もっとも『円卓の物語』は『マシュ』のことも含めてもう一度確実にやるので、そちらの方で出番があるかもしれません。出番が多いのでやっぱり無いかもしれませんけど(爆)


 あと、駄目な意味で『スマホのシナリオ』だった部分も多かった印象です。

『ちょっと会話して戦闘』というやつです。


 うーん、戦いを放棄した世界での戦闘シーンというのはそもそも難しく、あちこちに無理やりぶっこんだ感が強かったですね。


 今回のシナリオならば別に戦闘を減らしても問題なかったと思うのですが、その辺りが『スマホゲー』の縛りを脱却し切れなかった印象。


 と言っても、第二部のシナリオの中でおそらくもっとも難しい部分をきちんと面白さを残したまま描いた力量は『さすが』だと思います。第一部だと『第四特異点』でこちらもかなり制約が多く、苦労している感が伝わってきました。


 その後の『第五』とか『第六』は逆にバリバリできたので、物語としてはどうしても『こういう部分』が必要なんですよね。


 逆に言えばこれから先の『第二部』はアクセル全開になっていきそうな感じ。設定と言うか物語の仕組みは大分見通せて来ましたし、ここから先は今までみたいに優しくないのではないかと思います。


 たぶん本当の意味でそろそろ敵対が始まっていくのかなーと思います。

 あ、そう言えば『前回』書いた『毒殺』の読みは外れてましたな。


 ただやはり『毒殺』では確実性に欠けるので、確実に『コヤンスカヤ』側の事情でしょうね。


 何かの取引をやろうと思ったのか。

 それとも苦しんでいるところを見たかったのか。


 彼女の目的がまだちょっと見えてこないので不明です。

 ただ『人間』を嫌っている。『獣』としての矜持がある。


 あとは『契約』は必ず守る。

 この辺りの情報は開示されました。


 まあ、『目的』も推測はできますが、ネタバレになるかもしれないのでカット。

 

 さてさて、今回の物語は『セイレム』に近いのでもしかすると評判が悪いかもしれません。でも、『第二部』にとっては大きな意味を持つ物語でもあります。きちんと物語の全体像を読むことができれば素晴らしい物語です。


 他人から奪い取った未来の先に何を求めるのか。

 きっとその答えがこの『人類史』を未来に繋げる鍵となるでしょう。


 それとは関係なく、恒例の『クリスマス周回』が始まってます(笑)

 今回は素材的に余裕があるのでそこまで周回しなくても平気そうですが。


 後はたぶん『中国系』のイベントも今後予定されてそうかなーと思います。

『韓信』とかはそのとき追加かな。他にも『あれ』とか。


 ってか『三国志』系の追加は全然ないな。

 何でだろ。人気あると思いますが、人気があり過ぎて逆に扱いが難しいのかな。


 まあ、そんな感じで長くなりましたが終わり。

 自分でも書きたいこと全部書いたか不明。

 

 たぶん何か忘れてる気がする。

 でも、長くなったのでまあいいや(笑)


<いつもの『苦しみます』の始まりー>

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