読書記録『蜜蜂と遠雷 』4(ネタバレ)

 過程が重要であり、結果はあまり問題にならないと書いたのだが、実はこの結果も重要なことを示している。それは最後に残された『順位』のことである。


 表面的には最終的な順位にあまり意味が無い。ただ『なぜその順位になったのか』ということを考えると、単純な順位だけではなく別の意味が見出せる。


『風間塵』の順位は、彼が受け入れられながらも完全には認められなかったという証だろう。おそらくは『ホフマン』の望みどおりの結末だったと推測できる。彼らの目的はけっして『音楽の歴史』を否定することでは無いからだ。


『否定されながらも肯定される』


 それこそが最善の結末であったため、この順位になったのだと思う。

 まあ、もっと下でも良かった気がするが、今回は『風間塵のギフト』を描いた物語であるため、多少強調したということかもしれない。

 

『マサル』の順位は妥当である。

 むしろ妥当過ぎる。これが『コンクールの順位を競う物語』だったならば、何の面白みもない。実際、順位を見ても何も感じなかった。ほぼ最初から予測していた通りの順位に落ち着いてしまったからである。


 だが、彼がこの順位になったという意味は『受け継がれた音楽の歴史』がこれからも続いていくということであり、『風間塵』という未知の音楽によって、今の音楽が否定されなかったという証になる。


『高島明石』に関しては少しややこしい。この辺りは審査員のシーンが無いため、何が正解なのか難しい。ただ本人が甘かったと認識しているのに、賞を受賞するという展開は面白い。


 作曲家の好みの問題なのか、それとも別の思惑があるのかは不明である。

 まあ、この辺りは深読みしないで、そのまま受け取った方がいいかもしれない。


 そして、一番重要なのは『栄伝亜夜』の順位である。

 作中の表現を見る限り、参加者の中で『音楽家』としてもっとも評価が高いのは、『栄伝亜夜』であると推測できる。『風間塵』に近い才能を持ちながらも、『マサル』に近い場所に立っているため、彼女の演奏が審査員から否定される描写は無い。


 だが、驚くべきことに彼女の最後の演奏シーンはカットされ、何の説明も無くあの順位になってしまっている。最後に『勝つ可能性』があったと言及されているが、なぜ『勝てなかったのか』という理由までは語られていない。


 なぜこんな結果になったのか?

 その疑問に対する答えはきちんと描かれている、と思う。


 それは『あの約束』である。『栄伝亜夜』は『風間塵』との『約束』を果たしたゆえに勝つことができなかった。均衡が取れていたバランスを崩し、『風間塵の音楽』に近づいてしまったために、『マサル』との間に差が出来てしまったと推測できる。


 最終的には『風間塵』が『仲間たち』ではなく『仲間を見つけた』と語るのは、彼にとっての仲間が『約束を果たした栄伝亜夜』だけだからだろう。深読みするならば『マサル』たちは仲間ではない(友人ではあるが)と考えることもできる。


 もっとも彼らが最終的に『辿り着く場所』は同じであると考えることもできる。

 これはたぶん後の感想で書くことにする。

 

 順位の話(賞)でもう一つ考えられるのが、『彼女のこと』だろう。

 これも順当かもしれないが、ただ深読みすると別の答えも見えてくる。

 圧力のシーンも描かれているため、判断が難しい部分だ。

 

 作中ではあまり描かれていないが、審査するというのは難しいことである。

 うーむ、審査員の話も読んでみたいような気がする。


『小説の審査過程』とかでも面白そうだよねー。

 この辺りは経験者も多いでしょうけど、身内ネタ過ぎて危険なのかもしれません。


<続く>

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