* * * * * *
「子供ばかりじゃない」
と、彩芽は呆れたふうに言った。思っただけなのかもしれない。言葉が、その意味が、文脈が。誰にも伝わらなければ言わなかったのと同じ事。その
オニユリが道化を演じている。ほとんどパニック状態だ。幼稚園や小学校みたいなもので、子供と追いかけっこしたり、隠れん坊をしたり。それぞれの子供の遊びが同時に進行していて、動き回る度に別の子に呼び止められ、はぐらかし、誤魔化し、遅滞させ、次へ進み、それを一人で処理している。子供たちは少なくない数が(現代人が欺瞞と偽善の名の下に……或いは彼らを主体ではなく客体・対象として、自分たちの社会を変革させるよりも容易に、彼らを社会から疎外し溶け込ませない為に……)『
――いいえ、あなたはいつも正しい。あなたはいつも正常であり、客体・対象として処理・消費され続ける我々こそが間違っているのだと。多数派はいつも疎外してきましたね。
――被害者ぶるのもいい加減にしろ。物語を進行しようじゃないか。紅い靴の踵(映画版です)を三回鳴らせば何処へでも
言葉なんかなきゃ良かったと常々思う。世界を表現するのに常に不足である言葉は、この頭の中に蠢いて。いずれ、自分の言葉と世界の虚像とが一致していく。まるでそれが真実であるかのように振る舞う。自らの言葉による思考は、その言葉によって客観視されない特徴を持つ。ゆえに、他人を排斥し続ける僕らが必要としているのは、同調でも批判でも、他人の言葉なんであって。連帯したり、侵襲されたり。学びがあります。一生学び続けてろ。一生、その気になっていろ。
進行すべき物語なんてあるのか? 僕らは過去を振り返って出来事を認識する。正義のヒーロー、キャプテン
「あんたは、ここで、何してんの」
「遊んでる」
オニユリは上ずった赤ら顔で(それは満更でもなかったのかもしれない)答えた。いい気なもんね。彩芽はゴロワーズに火を点けた。
「もうちょっとマシな
「ギャング?」
「あたしたちを守ってくれるくらいのね」
「でも、みんな、かわいいよ。こないだも、オズワルドちゃんに編み物を教えてあげて……」
声変わりもしてない、鼻水も垂れたままの、陰毛も永久歯も生え揃ってないような餓鬼だろうが、
この餓鬼どものギャングはバックアップだ。父権の象徴たる米軍は撤退するのでしょう? 子供だろうがチンケな銃だろうが、(彩芽は意識には昇らせなかったが、あるいは娼館だって。とここには記述しておこう)何だって利用して生き延びてやる。
「あの、さ、アヤメ」
「例の、噂の、事なんだけど」
その
「妊娠したのはデイジーよ」
「そうなの?」
「ええ、そうなの」
母なる海におけるファルスの象徴たる
「あんた、また切ったの?」
彩芽は何の肉だか分からないままそれを食らう。オニユリは気味悪がってそれを口にしない。私は言葉によって幻想の物語を構築しながら同時に、同じく言葉によってその幻想の分析あるいは解体を試みる。なぜならば、
「切っている、間は、安心できる、から」
確認行為だ。それはこの話がベトナムの
* * * * * *
有栖はその晩夢を見た。未来と過去と現在すべてのついての夢だ。姉がアポロを産んで、戦争は終わり、初めてのデートで色んな映画(有栖は実際にその夢で見た映画の内容もすべて覚えていたのだ)を代わる代わる眺めては、その晩、架空の性器で初めて
そして現実が残酷なのは
しかし有栖は色盲だった。『ジョニーは戦場へ行った』の現実がモノクロームで描写され、夢の中は総天然色のカラー映像になるように……。人は、想像しなければ(想像の中でしか)、幻想を持たなければ。現実とはいつまでも灰色のままである。(そして有栖はまだ七二年には存在しないはずの歌曲を唄いはじめる……)
“この世界は君の想像には狭すぎる
無限の渇望を抱えた
君の無垢な瞳にとって
君は家族の奴隷 両親の
分かった口を聞く大人たちは
みんな嘘付きさ
君は生まれながら狂ったように
王の住まう国を夢想して
君は夜の牢獄で自問する
君には逃げ出す飛行機も船も無く
沈むイカダを夢想する
それでも君は心の底から
この白黒の世界をぶち壊し
鮮やかな世界で生きたいと
君は生まれながら狂ったように
王の住まう国を夢想して
君は夜の牢獄で自問する
<D.C.>
<Perpétuel>
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