* * * * * *
八ミリ口径ロス・ステアー弾は三〇口径カービン弾の
現在、華子の部隊が運用する弾薬はおおよそ九種。ブルーノ、ゾロターン機関銃用の八ミリ口径モーゼル弾。デグチャレフ用の七・六二ミリ口径リムド弾。舟守の
(男根と銃砲の共通点は対象を侵し傷付ける為であり、その相違点とは命を与えるか奪うかという点にある。もちろん銃砲が守り男根が奪うのである。銃砲と男根とは表裏一体の同一存在でもある。概して男性性が
「これは、なんだ」
それら
それは『ロー・メンテナンス・ライフル』の試作品だ。大規模なプレス設備を使えないため手作業によって形だけを真似たモックアップに近い代物だが、鋳造で作られたダイヤモンドのように並んだ四つの銃身を持つ『リベレーター・ショットガン』はいくらか実用に耐えそうだった。
しかし有栖はその(試)作品に価値を認めない。彼女の優先事項は今や戦車。それは供物として捧げられるための……。また自らの
「せっかく
「あのさ帽子屋、僕は思うんだよね、
事実、有栖は華子の巣から働き蜂どもを盗用/登用していた。
「だけどさぁ……」
有栖は『ロー・メンテナンス・ライフル』の試作品を床に叩き付けた。部品はバラバラになって四散している。割れた卵が戻らないように…………。タンパク質が不可逆に熱変するように…………。潰された蛹から過去を反芻する体液が漏れ出すように…………。(人間存在は訂正の必要な間違いに過ぎないのですか)
「いいから、出来損ないは熔かして、戦車の部品にしろ! 僕に必要なのは楯であり、揺り籠であり、お前の趣味の豆鉄砲なんかじゃあないんだ!」
なぜ有栖は帽子屋に命令できるのか? これは有栖も帽子屋も自覚していない事だが、有栖は他人との境界を認識できず、自分の考えや気持ちというものが、他人には理解されていないという事を理解できていない。他人が自分の為に動くのは当然であり、他人は自分の認識の通りの存在であり、また自らの世界の解釈が世界そのものと同一であると誤解したままである。有栖は、儒教的精神に基づいて、年上の人間を敬わなくてはならないという抑圧を抱えていた。
帽子屋はその被り物の下で眉を
有栖は帽子屋が不満を持っているのは知っていたが彼女は彼の仕事に対する完璧主義を言わば信用していた。有栖はそのような労働へ満足に対価も支払わず、自らへの不信を売り渡す事によって成果を掠め取る事への代償に、余りにも無自覚であった。
チャールズ・チャップリンは『独裁者』で「
お前は
人間が全てのひとを幸福とする為に社会のシステムや文明や機械を発明したようにまた、愛によって疎外される者が居る。教会は苦しむ事は美しいと言います、神により救済を得られると言います。ニーチェは神というシステムを殺し、置き換えられた近代のシステムは、終ぞ改良される事なく既得権益を守るように作動します。免罪符を売り付けるように、愛も健康も友人も未来も金で買える。
それは黒い水だ。渇きを癒すオアシスは、既に独占されており、降り注ぐ雨は
それを良しとしなければ。真社会性と人間の群体、超個体の為に。それは当たり前の話。人間はその初期位置の環境と遺伝配列に人生を上下左右され、自由意志と自由選択は存在せず、ただ自己の決断による自己責任という名目で操られるのみである。生まれた時代が悪かっただけ。育った環境が悪かっただけ。この身体に流れる血が、空っぽの脳味噌に
その優生思想は、今の経済・学問・恋愛・生殖・自然・生存・競争・社会に加担する全ての者の総意です。誰が素晴らしき民主主義を、多数決の原理を、全生物の生存競争を否定できる?
(
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます